『誰が音楽をタダにした?』 スティーヴン・ウィット著

レビュー

9
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

誰が音楽をタダにした?

『誰が音楽をタダにした?』

著者
スティーヴン・ウィット [著]/関 美和 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784152096388
発売日
2016/09/21
価格
2,484円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『誰が音楽をタダにした?』 スティーヴン・ウィット著

[レビュアー] 岡ノ谷一夫(生物心理学者・東京大教授)

情報技術と芸術の不和

 初めて買ったCDはマイスキーのチェロとアルゲリッチのピアノによる「アルペジョーネ・ソナタ」だった。1986年だった。つい先日買ったCDは、タイナカ彩智の「蒼(あお)い背中」だ。この30年でCDを500枚くらい買ったと思う。

 しかしCDの売り上げは世界中で急激に減っている。問題はお金を払って音楽を買うという習慣が消えつつあることだ。なぜか。〈1〉音楽を圧縮する技術の進歩、〈2〉データ流通技術の発達、〈3〉音楽がCDという物体ではなくデータとしてネットで流通可能になったこと、そして〈4〉音楽を無料で流通させることをささやかな反抗として楽しんだ奴(やつ)らがいたこと。これらがその理由だ。

 本書は、それぞれの要因について、中心となる何人かの人物を徹底的に取材している。〈1〉は実直な音響エンジニア、〈2〉は単なるコンピューターおたく、〈3〉は、〈1〉と〈2〉の技術融合による必然的帰結に敏感な人々、〈4〉はちょっと小遣い稼ぎをしたかった労働者であった。誰にも悪気はなくても、これらが組み合わさることで音楽産業を破壊する力が生まれた。相対性理論が核兵器を産んだようなものだ。情報技術と芸術は、まだその共存の形を見いだしていない。本書はその軋轢(あつれき)をドラマとして描く。

 人間はたぶん言葉以前から歌をうたっていた。だから音楽産業が無くなることはないだろう。いずれダウンロードによる配信が標準となり、海賊版が排除される仕組みが成立するであろう。しかし最後にレコード世代から提言させてもらおう。

 YouTubeで10回以上聴いた曲があるなら、その曲が入ったCDを買おう。芸術家への敬意を、お金を払うことで示そうではないか。お気に入りの曲を君がタダで聴いているうちに、芸術家は窮乏するのだ。情報を動かすことでお金を儲(もう)ける人々ばかりが栄え、芸術を創造することが報われなくなるのであれば、この世から芸術は消えてしまうぞ。関美和訳。

 ◇Stephen Witt=1979年生まれ、ジャーナリスト。「ニューヨーカー」誌などに寄稿。

 早川書房 2300円

読売新聞
2016年11月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加