『最後の秘境 東京藝大』 二宮敦人著

レビュー

5
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最後の秘境 東京藝大

『最後の秘境 東京藝大』

著者
二宮 敦人 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103502913
発売日
2016/09/16
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『最後の秘境 東京藝大』 二宮敦人著

[レビュアー] 朝井リョウ(作家)

 等身大全身像を作るため、体に半紙を貼りつけ始める。料理に使う計量スプーンを自作する、大学生協でガスマスクを購入してくる――東京藝術(げいじゅつ)大学出身の妻の行動に興味を抱いた著者による「芸術界の東大」全学科探訪記。

 芸術、特に藝大の二本柱である美術、音楽と聞くと、言葉にできない感性のようなものが重視されるイメージがある。だが、印象的に描かれているのは、身一つで芸術に立ち向かう学生たちによる肉体勝負の日々だ。楽器の練習で肩を壊しながら、漆でかぶれながら、溶けた金属による熱で睫毛(まつげ)を失いかけながら、学生たちはたった一つのことを極めるべく日々勉学に励む。それって意味あるの、と外の世界から問われながら。

 少々表層的に捉えた本だ、という意見も聞くが、私のように、東京藝大に詳しくはないけれど興味はあるという人間にとっては、学長が「お前ら最高じゃあ!」と叫ぶ学祭に足を運んでみたくなるほど十分な内容だった。強烈に惹(ひ)かれるものがある状態の幸福と興奮と焦燥を、本に登場する学生一人一人が、そしてこの本自体が改めて教えてくれる。

 新潮社 1400円

読売新聞
2016年11月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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