飾らず、偽らず、欺かず 管野須賀子と伊藤野枝 田中伸尚 著

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飾らず、偽らず、欺かず 管野須賀子と伊藤野枝

『飾らず、偽らず、欺かず 管野須賀子と伊藤野枝』

著者
田中伸尚 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784000611565
発売日
2016/10/21
価格
2,268円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

飾らず、偽らず、欺かず 管野須賀子と伊藤野枝 田中伸尚 著

[レビュアー] 山泉進

◆闘う女性たちの歴史空間

 副題にあるように、先駆的な人生を生き抜いた二人の女性の評伝である。一人は明治末期に大逆事件に連座して死刑に処せられた女性、もう一人は関東大震災の直後に憲兵隊に扼殺(やくさつ)された女性。一人は一八八一(明治十四)年に生まれ、もう一人はその十四年後に生まれ、一人は二十九歳で、もう一人は二十八歳で、ともに国家の権力によって命を奪われた。女性の解放と自由のために闘った二人の人生の軌跡を、別々に記述して繋(つな)げるのではなく、時空をこえた共通の歴史空間のなかに論述したところに本書の魅力がある。

 その工夫は全体の構成のなかに表れている。第一章は「自由を求めて」と題し、須賀子の女性ジャーナリストとしての自立と野枝の「新しい女」としての出発を語る。第二章「ひたぶる生の中で」は、須賀子のクリスチャンから社会主義者への脱皮と野枝のエマ・ゴールドマンとの出会い、第三章「貧困からの飛翔(ひしょう)」では、二人の誕生から成長の過程、第四章は「転機」と題して、須賀子の赤旗事件での逮捕と野枝の谷中村への訪問、を描いている。

 第五章は「記憶へ」と視点を変え、「転機」を契機にした、須賀子の幸徳秋水との出会いから絞首刑にいたる過程、野枝の大杉栄との出会いから虐殺される過程に言及する。「記憶へ」という章名は唐突な感じを抱かせるが、これこそ「歩いて書く」という著者の記述スタイルの根底にあるものである。二人の人生の記録を、いまを生きる私たちの時代の「記憶」として再生し続けること、それが二人の顕彰となり、二人が闘った歴史空間の桎梏(しっこく)がいまだ解放されてはいないことを告げる、著者のメッセージになっている。

 全集として活字のなかに閉じ込められ、数少ない写真のなかにピンで留められた二人の人生の痕跡に、著者は生気を吹き込んで、見事に現代に生きる人物として蘇(よみがえ)らせた。読みやすい文章にまとめられた本書は、著者の二十年に及ぶ問題意識の熟成の成果である。

 (岩波書店・2268円)

<たなか・のぶまさ> ノンフィクション作家。著書『未完の戦時下抵抗』など。

◆もう1冊 

 菊谷和宏著『「 社会(コンヴィヴィアリテ) 」のない国、日本』(講談社選書メチエ)。フランスのドレフュス事件と大逆事件を比較し、日本社会の不在を問う。

中日新聞 東京新聞
2016年12月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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