相倉久人にきく昭和歌謡史 相倉久人・松村洋 著

レビュー

5
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

相倉久人にきく昭和歌謡史

『相倉久人にきく昭和歌謡史』

著者
相倉久人 [著]/松村洋 [著、編集]
出版社
アルテスパブリッシング
ジャンル
芸術・生活/音楽・舞踊
ISBN
9784865591460
発売日
2016/09/10
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

相倉久人にきく昭和歌謡史 相倉久人・松村洋 著

[レビュアー] 上野昂志(評論家)

◆現場の記憶をたどる

 相倉さんは、徹底して現場の人だった。評者は、開店間もない新宿ピットインで、ジャズメンと聴衆の双方を盛り上げる彼の司会を楽しんだ記憶がある。だから、本書の元になる相倉・松村対話の現場に行けなかったのが残念だ。

 だが、本には現場で聞き漏らしたことも再現する功徳がある。改めて思うのは、相倉さんが現場の人であると同時に、畏(おそ)るべき記憶の人でもあるということだ。戦前のエノケンこと榎本健一の歌から、服部良一と笠置シヅ子の関係、戦時歌謡(相倉さんは陸軍幼年学校出身なのだ!)、戦後は美空ひばりから坂本九、クレージー・キャッツ、そして山口百恵をはじめとするアイドルを経て、平成の<昭和歌謡>に至る歴史が、CDなどの聴き直しによって、あくまで具体的な歌謡論、日本文化論として展開されている。

 興味を惹(ひ)かれる指摘や発言は多々あるが、典型的な戦後派だと思われた笠置シヅ子が、すでに戦前、パワフルに歌っていたと知ると、改めて一九三〇年代と戦後の非連続の連続に思い至る。洋楽と日本語の関係などについての話も刺激的だ。また、榎本健一が坂本九を後継者と見做(みな)していたという証言も興味深いし、山口百恵、松田聖子、中森明菜、河合奈保子らアイドル歌手それぞれの自己意識と表現の関係など、相倉さんならではの洞察に深く納得する。

 (アルテスパブリッシング・2160円)

<あいくら・ひさと> 2015年没。音楽評論家。まつむら・ひろし 音楽評論家。

◆もう1冊 

 相倉久人著『されどスウィング』(青土社)。ジャズやポップスを論じた半世紀の評論を収め、遺著となった自選集。

中日新聞 東京新聞
2016年12月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加