『現代日本外交史』 宮城大蔵著

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『現代日本外交史』 宮城大蔵著

[レビュアー] 牧原出(政治学者・東京大教授)

躍動する国際関係

 1989年、ベルリンの壁が壊され、東欧の共産主義政権が崩壊し始めると、米ソ首脳は「冷戦終結宣言」を発表。以後現在に至るまでの平成時代、日本外交はどう展開したのだろうか。

 本書は内閣ごとに外交政策を叙述する一見概説書風の構成である。だが、長らく東南アジアをはじめとする「海のアジア」に着目してきた宮城氏ならでは。その柱は安全保障に加えて地域主義である。米、中、露といった大国との2国間関係のみならず、アジア太平洋における日本の位置を丹念に探るのである。確かに湾岸戦争で始まったこの時期の日本外交は、安全保障分野では受動的に見える。しかし、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の設立、カンボジア和平への積極的関与、ODAの指針となった「人間の安全保障」、小泉純一郎政権期のASEAN(東南アジア諸国連合)+6路線、福田康夫首相の「『内海』としての太平洋」構想といった地域主義の系譜を取り出すと、能動的な外交の姿が立ち現れる。あの迷走を極めた民主党政権でさえも、鳩山由紀夫首相がインドネシアのユドヨノ大統領とともに、バリ民主主義フォーラムで共同議長を務めたことは評価される。現政権が掲げる「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」は、こうした地域主義外交の到達点でもあった。

 いまだ歴史的評価が定まらない同時代史であり、資料公開もこれからである。そこで宮城氏は、メディア上の首脳たちの談話やオーラル・ヒストリーを多用し、その発言の中に外交の実像を描き出す。たとえば外から日本の首相はどう見えたか。ロシアのエリツィンは首相を退任した橋本龍太郎に「リュウ、なぜ総理を辞めてしまったのか」と電話口で嘆き、アメリカのブッシュは、小泉の北朝鮮訪問を「ジュンイチロウが決めたことだから」と語った。発言部分を拾い読みしてみたい。躍動する国際関係が眼前に広がるだろう。これぞ歴史の醍醐(だいご)味である。

 ◇みやぎ・たいぞう=1968年生まれ。NHK記者を経て上智大教授。著書に『戦後アジア秩序の模索と日本』。

 中公新書 880円

読売新聞
2016年12月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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