『「ひとり」の哲学』 山折哲雄著

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「ひとり」の哲学

『「ひとり」の哲学』

著者
山折 哲雄 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784106037931
発売日
2016/10/27
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『「ひとり」の哲学』 山折哲雄著

[レビュアー] 納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

生と死を追体験する旅

 「人はひとり死ぬであろう」(パスカル)「生ぜしもひとりなり、死するもひとりなり」(一遍)

 孤独死や独居老人など、単独であることが不幸や悪であるかのように言われる一方で、常に誰かと繋(つな)がっていないと不安という過剰な他者依存、非自立も社会問題となっている。それは本当の「ひとり」が確立できていないからではないか。宗教学を専門とする著者は、この状況に警鐘を鳴らしつつ、日本の歴史にあるべき姿を求める。

 日本で「ひとり」という人間のあり方を打ち立てた時代があった。それは「軸の時代」とも呼ぶべき13世紀の思想家たちである。親鸞、道元、日蓮の3人を中心に、彼らに先立つ法然、最後を飾る一遍を取り上げ、その生き様や思想をふり返る。それぞれの仕方で葛藤しつつ、「ひとり」で歩む生き方を作り上げた人々の姿がそこにある。

 著者はその哲学に出会うため、現代に彼らの足跡を辿(たど)る旅に出る。旅と言っても、鎌倉時代に先人がひたすら歩いた道を、レンタカーと高速であっという間に走破してしまう。だが、車中や史跡で去来する想念が、過去と現在、私たちと仏教者たちの「こころ」を交差させる。そこには、著者自身の辿ってきた人生や人々との出会いが混じり合う。著者とともに空想と追体験に身をまかせる旅が、私たちもまた「ひとり」になる道なのであろう。

 「ひとり」となるとはどのようなことか。非僧非俗や座禅や異端や捨聖(すてひじり)といった特異な形で、死を受け入れながら生きる覚悟、その境地を開いたのが彼ら鎌倉仏教者であった。その姿が屹立(きつりつ)する。

 歴史や宗教の意識が希薄になっている現代、私たちは寄る辺のない社会を嘆きがちである。だが、人間は誰しも、一人で生まれ、一人で死ぬ。その原点に立ち返るべきであろう。老齢に立った著者の姿にもまた、私たちが学ぶべき「ひとり」を見る思いがする。

 ◇やまおり・てつお=1931年、米サンフランシスコ生まれ。宗教学者、評論家。国際日本文化研究センター名誉教授。

 新潮社 1300円

読売新聞
2016年12月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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