【聞きたい。】永井義男さん 『本当はブラックな江戸時代』

インタビュー

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本当はブラックな江戸時代

『本当はブラックな江戸時代』

著者
永井義男 [著]
出版社
辰巳出版
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784777817801
発売日
2016/11/02
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【聞きたい。】永井義男さん 『本当はブラックな江戸時代』

[文] 産経新聞社


永井義男さん

 ■無条件の美化に一石投じる

 11歳や12歳で奉公に出て、休日は年に2日。長期休暇がもらえるのは9年目。住み込みのため独身を強いられ、番頭まで勤め上げた40代になってようやく結婚できた-。

 「華やかに見える日本橋の大店(おおだな)でも、江戸の商家の勤務実態は現代から見るとブラック企業。本のタイトルを編集者に示されたときは抵抗がありましたが、今は時宜を得たものだったかなと思います」

 江戸は豊かで清潔、町は安全で、長屋には人情が満ちていたなど、江戸を賛美する本は数多い。日本人はすごかったと褒められれば、読者も悪い気はしない。だが、永井さんは当時の風俗小説や随筆、日記などの記述から、悲惨な実相を次々に突きつける。

 いわく、江戸の水を飲むと下痢をする、町奉行は市民を守ってくれない、餓死する隣人を見て見ぬふり、子供の虐待等々。図版も豊富で、蓋もしない肥桶(こえおけ)をかつぐ掃除人とすれ違い、鼻をつまむ人たちの絵は強烈だ。錦絵や浮世絵で見るハレの世界とは別物の「日常」が浮かび上がる。

 「全て暗黒だったというつもりはないし、同時代のヨーロッパや中国と比べるとはるかに清潔で貧富の差が少ない社会だった。ただ、無条件に美化する風潮はどうにかしたいとずっと思っていました」

 永井さんは編集者を経て時代小説作家となった。遊里関係の考証も多く、吉原の実態と仕組みを解説した『図説吉原事典』(朝日文庫)は長く読まれている。

 「吉原の花魁(おいらん)は通って3回目でようやく肌を許すといわれますが、これも史料の裏付けがない伝説」。確証はないが、明治以降の落語や小話が原典で、孫引きされるうち定説になってしまったのではという。

 「現代の風俗店で2回も無駄金を払って平気な人がいますか? 常識で考えたら分かること、江戸幻想に縛られずに見てほしい」(辰巳出版、1400円+税)

 永井優子

                   ◇

【プロフィル】永井義男

 ながい・よしお 昭和24年、福岡県生まれ。東京外大卒。平成9年、『算学奇人伝』で開高健賞。著書に『江戸の糞尿(ふんにょう)学』(作品社)、『江戸の売春』(河出書房新社)など。

産経新聞
2016年12月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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