お見合い80回の記録保持!ベテラン落語家の自叙伝
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
著者は現在63歳のベテラン落語家です。高座に上がるとしばし喋りません。やがて客席にはさざ波のような笑いが。そこへ「舛添要一です」とやるのでたまりません。またよく似ているのです。更に「違法ではないが不適切」の例を次々と挙げ、爆笑の渦となります。
最初の師匠は八代目春風亭小柳枝という伝説の落語家です。酒癖が極端に悪いことで知られ、かの三遊亭小圓遊に燗酒だと偽り小便を飲まそうとした人です。落語の『禁酒番屋』さながらですが小圓遊は激怒、小柳枝は後に「小圓遊(あいつ)はシャレが分からねえ」とうそぶいたとか。
そういう人であることを知らずに著者は弟子入りします。最初の日、庭の草むしりを命じられます。条件は食べられる草と食べられない草の分別です。師匠は妻の家に住み、離婚成立後も一角に居残り、追い立てられつつ極貧に喘いでいたのです。師弟ともども酔い潰れ、段ボールにくるまって路上で寝たこともあるそうな。
そんな師匠は50歳であっさり落語家を廃業してしまいます。さあ困った、行き場がありません。小柳枝の弟子ということで敬遠されたのです。春風亭柳昇が救いの手を差しのべてくれたのですが、小柳枝は柳昇にもひどいことをしていて、居心地がよくありません。いずれ好転するのですが肩身の狭い思いをしたのです。
著者はお見合い80回という記録を持っています。お嬢さんには断わられるもお父さんには気に入られ、その関係が今も続くというエピソードも持っています。
本書はそんな瀧川鯉昇がいかにして出来上がったかという自叙伝なのですが、困った問題が一つあります。版元の性質上、置いてある書店が少ないのです。直接『東京かわら版』に申し込むのが一番だと思います。悲惨な話がカラッと描かれ、ひと手間かけて入手するだけの本であることは私が保証いたします。