人生は冒険だ。たった一度の人生を「出る杭」として生きてみよう。【自著を語る】

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「出る杭」は伸ばせ! なぜ日本からグーグルは生まれないのか?

『「出る杭」は伸ばせ! なぜ日本からグーグルは生まれないのか?』

著者
辻野 晃一郎 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163905754
発売日
2016/12/13
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

人生は冒険だ。たった一度の人生を「出る杭」として生きてみよう。

[レビュアー] 辻野晃一郎

 ソニーのカンパニープレジデント、グーグル日本法人の社長を歴任した辻野晃一郎氏による週刊文春の人気ビジネス連載が、大幅に加筆修正のうえ書籍化された。これからのビジネスで大事なのは「出る杭」であることだ、と辻野氏はいう。なぜ今、「出る杭」なのか?

 最近、政府の旗振りや電通の事件もあって、「働き方改革」に対する機運が盛り上がりつつある。本来、「働き方」は「生き方」だ。政府の旗振りや事件で初めて本気になるのではなく、会社も個人も、もっと早くから目覚めねばならなかったテーマでもある。長時間労働やサービス残業など、日本企業の、特にホワイトカラーの生産性の低さについては、長いこと指摘され続けてきた。今こそ、会社等の組織は「個」に犠牲を強いるのではなく、「個」を尊重した働き方を本気で確立せねばならない。一方で、働く「個」も意識改革や行動変革に目覚める必要がある。

 私は、新卒で入社し、22年勤めたソニーを退社した翌年、2007年4月からグーグルに入った。もともとソニーはキャラの立った「個」が活躍する会社だった。ニューズ・ワークステーションやアイボ等のロボットを立ち上げた天外伺朗氏や、ゲームビジネスを立ち上げた久夛良木健氏などの有名人も多く輩出している。グーグルではさらに「個」の活躍が際立っていた。「クラウド時代の個を尊重した働き方」を作り上げており、私自身その斬新な働き方には大きな影響を受けた。

 グーグルには、「グーグリー」や「グーグリーネス」という言葉があった。「グーグルっぽい」とか「グーグルらしさ」という意味だ。いつも明るく元気で、地頭が良く、正義感に溢れ、行動力があって、コミュニケーションが上手く、頼りになる存在、とでもいうイメージだろうか。自発的に考え、行動する「セルフスターター」が尊重され、社員には、使命感が高くアジェンダが明確な人が多かった。業務命令に従って受身で仕事をする、というスタイルは軽蔑され、「命令されて仕事をしたければ海兵隊にでも行け」と語る幹部もいた。上司の指示に従って仕事をする場合は、自分が納得するまで上司と徹底的にやり合うのがよしとされた。

 インターネットやクラウドの人類への最大の貢献は、「個」をさまざまな制約から解放し、「個」の力を格段に増幅したことだ。信念や行動力のある人にとっては、自分が理不尽と思うことに我慢して従ったりマジョリティに同調したりせずとも、もっと思うように生きる新たな手段が与えられたともいえるだろう。

 グーグルでは、「個」を尊重したフラットな環境の中で、権限委譲と情報の共有化が進んでおり、クラウドのリアルタイム性をフルに活かしたスピーディーなコミュニケーション、意思決定、アクションが日々猛烈な勢いで繰り返されている。1998年の創業以来、グーグルが広告ビジネスの世界を根底から刷新するだけでなく、最近はAIなどでも世界を席巻し続けているのは、「個」を尊重したスピーディーな働き方を築き上げているからだ。

 ソニーとグーグルで働いた後、私は2010年に起業した。組織を離れて「個」になったのは、理不尽なことを受け入れたり、高圧的な要求に従ったりすることを嫌うもともとの性格にもよるかもしれない。

 起業した翌年3月には東日本大震災が発生したが、私の起業は、強い危機意識がきっかけになっている。その頃の日本は、まさに悪夢のようだった。民主党政権下でデフレが続き、リーマンショックの影響も残る中、経済の先行きは極めて不透明だった。ソニーという日本の宝物のような会社の凋落を目の当たりにし、その後グーグルという最強の黒船に乗り合わせる経験を経た自分にとって、「何か行動しなければ」というエネルギーを抑えることが出来なかった。

 起業という挑戦を通じて私が実現したいことは、欧米型資本主義の限界を肌で感じる中、日本が生み出した価値を基軸に置いた事業やビジネススタイルを時代に合わせて再構築し世界に広めていくことだ。現在は、その考えに基づいた越境ECやクラウドファンディングの独自プラットフォームを開発、運営している。

 起業は冒険だ。最初に考えた事業プラン通りに事が運ぶことなどまったくない。試行錯誤と失敗、挫折の連続だ。想定外のことが次々と起きるから、咄嗟の瞬発力や柔軟性が常に試される。だから安定志向の人には向いていない。計画通りにいかなかったり厳しい状態が続くと、逃げたり、言い訳したり、他に責任転嫁するような人にも向いていない。しかし、さまざまな困難や障害、想定外の出来事は、むしろ冒険に不可欠なエンターテインメントだ。胆力と忍耐力があり、何があっても肯定的にそのエンターテインメントを楽しむことができ、逃げずに前に進み続けるエネルギーや素早い行動力の持ち主には、これほど魅力的な世界もないだろう。

 我々は、組織や肩書きに依存したり、周囲に気を使って言いたいことややりたいことを我慢しがちだ。だが、起業に限らず、「人生は冒険だ」と悟り、周囲との軋轢やさまざまな妨害があっても、思う存分主体的に「出る杭」としての人生を生きてみるのも悪くない。

 インターネットやSNSが発達し、今はまさに「Wisdom of Crowds(群衆の叡智)」の時代だ。一人一人の「個」の才能、価値観、生活都合などが最大限に尊重されねばならない。これからは、さらなる技術革新や超高齢社会の到来など、未曾有の歴史的大変化が本格展開していく。求められるのは秀でた個人、「出る杭」だ。未来の課題を見据え、その解決策を求めて思い切った冒険の出来る人材がもっと必要だ。

 冒険の先には見たこともない素晴らしい世界が広がっているに違いない。たった一度の人生だ。自分を信じ、あなたも新たな挑戦に一歩踏み出してみてはいかがだろうか。

文藝春秋 本の話WEB
2016年12月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

文藝春秋

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