[本の森 仕事・人生]『こちら文学少女になります』小嶋陽太郎/『ラーメンにシャンデリア』風カオル

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こちら文学少女になります

『こちら文学少女になります』

著者
小嶋 陽太郎 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163905273
発売日
2016/09/29
価格
1,890円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ラーメンにシャンデリア

『ラーメンにシャンデリア』

著者
風 カオル [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784093864541
発売日
2016/09/26
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『こちら文学少女になります』小嶋陽太郎/『ラーメンにシャンデリア』風カオル

[レビュアー] 吉田大助(ライター)

 第一六回ボイルドエッグズ新人賞でデビューした小嶋陽太郎の筆が、完全にノッてきた。第四作『こちら文学少女になります』(文藝春秋)は、文学部出身で小説大好きアピールによって出版社への就職が決まったはずが、なぜだか男だらけの青年漫画誌編集部に紅一点、配属されてしまった新米編集者・友梨のお仕事小説だ。漫画は「一冊も」読んだことがないのに、「なぜ私が」。読者プレゼントの景品五種類を選んで手配しろと命じられた際には、コシヒカリとひとめぼれとあきたこまちとつがるロマンとササニシキをそれぞれ一〇キロずつセレクト。「バックナンバー見ろや! 景品が米の号がひとつでもあったか! 町内会の福引じゃねえんだよ!」と先輩に怒られるくだり、大好きです。

 そうこうするうちに、部長いわく名人芸、率直に言えばワンパターンな長期連載を持つ大御所の担当になり、漫画を自己実現欲求に利用するド素人の持ち込みに絶望し、童貞漫画家の童貞漫画の連載原稿を取り立てることに(作品名は『いまだ、できず』)。漫画に関わる人々の、漫画に対する「好き」を浴びることで、ヒロインは少しずつ変心し確かな成長を遂げる。物語の後半に登場する、覆面作家・今井コウタの正体を巡るストーリーラインは、ミステリーとしても実に鮮やかだ。その「謎」が解ける瞬間、ヒロインにとって「好き」ではなかった仕事が、「好き」になる。ラストはかゆみを感じるくらい、嬉しくって楽しくって。小嶋陽太郎という作家はまぁホント、チャーミングの天才です。

 小学館文庫小説賞でデビューした風カオルの第二作『ラーメンにシャンデリア』(小学館)は、自分の仕事が「好き」とは思えない男と、「好き」を仕事にしたい女の子とのボーイ・ミーツ・ガール。

 博多のとんこつラーメン店「満月亭」の跡取り息子・蓮華(れんげ)は、高校卒業と同時に店で働き出した。「俺にはラーメンしかない」と思っていたからだ。「べつに、好きやけんするもんじゃないやろ、仕事って」。だが、耽美ファッションに身を包むハタチのお嬢様・山田トメが、バイトに採用されたことから歯車が狂い出す。「私は、美しい物が好きって気持ちを、だれかと共有できる仕事をしたいんです」。ラーメン店員としては使えない、けれど愛嬌のある彼女は、耽美趣味を持ち込んで店をきらびやかにリフォームし始めた。新メニュー「神に背きし骨と薔薇」も評判を呼び劇的ビフォーアフターなドラマが生じるが、やがて蓮華との対立が芽生える。「蓮華さんには好きなものがないから、わからないんです」。……「好き」とはなんだろう? トメの言葉に刺激を受け、もう一度自分の心を見つめ直した蓮華が出した結論とは何か。極上ラブストーリーの中に、仕事と「好き」との関係をも盛り込んだ、これまたとびきりチャーミングな一篇なのでした。

新潮社 小説新潮
2016年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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