明文堂書店石川松任店「《技巧を凝らした物語》という枠内では収まりきらない衝撃」【書店員レビュー】
レビュー
明文堂書店石川松任店「《技巧を凝らした物語》という枠内では収まりきらない衝撃」【書店員レビュー】
[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)
富士山北麓の樹海で発見された運転免許証の持ち主は、消息を絶っていた小松原淳のものだった。周囲からは神童と騒がれ、8歳で日本児童文学賞を受賞した小松原淳の人生を本にしたい、と淳の母親から依頼を受けた出版社は、新人賞を二つ取りながらも一冊も本を出せずにいる島崎潤一にゴーストライターの話を持ち掛ける。ゴーストライターとして小松原淳について調べ始めた島崎だったが・・・・・・。
人形のように美しく謎めいた淳の《妹》、淳の人生の中にたびたび現れる《異人》、島崎に先んじて淳の周辺人物を取材する謎の中年女性・・・・・・。多数の作中作やインタビューが差し込まれる本書は、違和感に満ちている。そしてその違和感は強烈な不安を生み出し、読者はいつしかその不安に酔いしれ始めている。
精巧な硝子細工にわざと罅を入れたような歪みが本書にはあり、小松原淳の人生、周辺人物の言葉、そして結末は読者の内に眠る昏い感情を呼び覚ます。技巧の限りを尽くしながら、《技巧を凝らした物語》という枠内では収まりきらない衝撃的な作品です。傑作!