渕書店 BOOKSTORE FUCHI「本を読む人の、本を読む人々の本」【書店員レビュー】

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渕書店 BOOKSTORE FUCHI「本を読む人の、本を読む人々の本」【書店員レビュー】

[レビュアー] 渕書店 BOOKSTORE FUCHI(書店員)

とある島に一軒ある小さな本屋アイランドブックスのオーナー、フィクリーが核となるラブストーリー。ラブストーリーというと男女のそれを想像するかもしれないが、それ以上の、人間が抱くであろう多くの愛を感じさせる作品である。いくつものエピソードが絡まりつつもその感覚は一貫している。

物語そのものは淡々と描かれるのだが多くの不幸を持っている。交通事故、捨て子、海への身投げ、養女・・・だが物語は大きくは騒がない。淡々としている。それは登場人物たち誰もが一定の教養と知性を持った大人であるからだ。そしてそれは、言い切ることはしたくないが本書のステージである<本>というものの周辺、或いは中心に彼らが居るからではないかと推測される。シニカルに物事を見るがそこに必ず知性と教養が加わり棘をユーモラスにする。運命論を読者は疑うが、このように世界がまとめられると本書にそれを感じない人は少ないのではないだろうか?特に鈍感であるこの読者は第一部の顛末にしばしページをめくる手を止めてしまった。

人生は深みを増すごとに哀愁を帯びるが、それは必ずしも悪いものではないことを本書を読み思った。

トーハン e-hon
2016年11月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

トーハン

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