明文堂書店石川松任店「異様な世界を彷徨ってきた読者の前に現れる、予想外の光景」【書店員レビュー】

レビュー

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夜行

『夜行』

著者
森見, 登美彦, 1979-
出版社
小学館
ISBN
9784093864565
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

明文堂書店石川松任店「異様な世界を彷徨ってきた読者の前に現れる、予想外の光景」【書店員レビュー】

[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)

英会話スクールの仲間たち六人で鞍馬の火祭を見物に出かけた十年前の夜、仲間の一人が姿を消した。姿を消した女性《長谷川さん》。彼女を除く当時の仲間五人が鞍馬の火祭のために十年振りに集まった時、私は《長谷川さん》を思わせる女性を追って一軒の店に入る。その画廊で私が出会ったのは、『夜行』という連作を描き続けた岸田道生の銅版画だった。仲間たちにその銅版画の話をしたところ、彼らもその岸田道生の絵について心当たりがあったようで、ひとりひとり『夜行』と《長谷川さん》をめぐる記憶を語り始める。
語り手の話はどこか違和感を孕んでいて決して綺麗な終わり方(いわゆる腑に落ちるタイプの作品とは違っています)をしないが、それが読者の想像力を掻き立て、美しい余韻となる。見慣れた日常を見慣れぬ非日常がひっそりと横切り、とても読む側を不安な気分にさせる作品でもあるが、この不安が不思議と心地良かったりもする。
そして物語の終盤、語り手たちの話とともに異様な世界を彷徨ってきた読者の前に予想外の光景が現れる。その光景はあまりにも魅力的だ。
描き出される幻想的で静謐な世界はとても美しく、心に残る。とても良い作品だ。

トーハン e-hon
2016年12月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

トーハン

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