明文堂書店石川松任店「酸鼻極まる世界でひっそりと咲く花に恋をした少年」【書店員レビュー】

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明文堂書店石川松任店「酸鼻極まる世界でひっそりと咲く花に恋をした少年」【書店員レビュー】

[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)

最初に言っておくと、本書は狂気的でグロテスクな一冊です。読む上である程度の覚悟が(人によっては)必要かもしれません。しかし真実とともに立ち上がる光景はとても美しく、興味のある人は是非読んで欲しいと思います。
あらゆる違法が蔓延り、スラム街を思わせる板切町(通称イタギリ)で、時には死体回収まで行うゴミ屋として働く晴史は、イタギリの目抜き通りである《極楽通り》で「物売り」(売娼の営業形態の一つである)をしている似顔絵描きの少女に想いを寄せていた。肉体は死にながらも脳が働き、動く死体のように存在する《シナズ》、死体から内臓を抜き取る猟奇殺人者《肝喰い》……本書は、酸鼻極まる世界でひっそりと咲く花に恋をした少年の話である。
倫理観や他者の眼に想いを馳せることなく、ただ二人だけの世界に没頭する。形は多少歪かもしれないが、間違いなく純愛である。二人を見守るかのように紡がれた文章は凄惨だが、優しさも感じられる。そのひたむきな愛が辿った結末に、思わず心揺さぶられました。

トーハン e-hon
2016年12月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

トーハン

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