魚と日本人 濱田武士 著  

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

魚と日本人 : 食と職の経済学

『魚と日本人 : 食と職の経済学』

著者
濱田 武士 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784004316237
価格
886円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

魚と日本人 濱田武士 著  

[レビュアー] 冨岡一成

◆出会いを演出する職能者

 奥さん、きょうはカツオもっていきなよ-ひと昔前まで、まちの商店街には必ず魚屋のダミ声が響いていた。おいしい魚も食べ方も教えてくれる。丸の魚をさっさとさばく手つきをまねして、自分でもおろしてみたものだ。まさに魚屋の店先から、日本固有の「魚食」が伝えられていたのである。

 「魚食」を形づくるのは漁業・流通・小売の各段階にたずさわる水産人、著者が「魚職」と名づける職能者だ。漁師が命がけで獲(と)った魚介は、産地卸売市場の荷受と仲買人の手で消費地卸売市場(たとえば築地)に送られる。そこで荷受と仲卸とのセリや相対取引により価格決定され、小分けになって小売へ。そして最後に鮮魚店や板前の「腕前」にかかって我々の口に入る。

 この「魚職」のつながりは長い年月のうちに定着したもので、一九九〇年代まで水産流通の中心となっていた。だが、経済のグローバル化、消費低迷や都市化などの国民生活の急変によって、水産業界は大きく様変わりする。大量流通・消費の時代に漁業はとり残され、市場流通は減少した。量販店の台頭がまちから魚屋を駆逐していく。「魚職」活躍の場は失われつつある。 その結果、総合スーパーは輸入水産物を中心に同じ魚ばかり並び、刺身盛合せなど加工品が目立つ、鮮魚売場とは名ばかりのものになってしまった。人と魚の出会いを演出できない売場となったことが魚離れの一因だという。

 本書は「魚食」を支える「魚職」の魅力と現状をあきらかにするものだ。市場や漁港を丹念に回り、ときに漁船に乗り組む著者だからこそ、複雑な水産業を手に取るように教えてくれる。そして「人が人に敬意を払う」「自然からの恵みをうまく廻(まわ)し、活用する」ことが「魚食」復権を導くとしている本書の提言が切実に響いてくるのだ。 そうだ-スーパーの鮮魚売場担当者におすすめの魚をきいてみよう。あるいは売場の人だって伝えたいことを日々かかえているのかもしれない。

 (岩波新書 ・ 886円) 

<はまだ・たけし> 北海学園大教授。著書『漁業と震災』『日本漁業の真実』など。

◆もう1冊 

 矢野憲一著『魚の文化史』(講談社学術文庫)。魚食をはじめ、魚と寺社の行事や冠婚葬祭などとの関わりをまとめた日本人の生活誌。

中日新聞 東京新聞
2016年12月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加