発禁作家が「神実主義」でえぐりだす 中国の荒唐無稽な理不尽さ

レビュー

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炸裂志

『炸裂志』

著者
閻 連科 [著]/泉 京鹿 [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784309207216
発売日
2016/11/29
価格
3,888円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

神話めいた超リアリズム!面白すぎる翻訳文学

[レビュアー] 鴻巣友季子(翻訳家、エッセイスト)

 黙示録映画のようなテロが起き、モンティパイソンばりの国民投票があり、コントみたいな大統領候補が誕生する今の世界。現実に食われ気味の文学だが、果敢な試みは続く。閻連科が中国の内包する荒唐無稽な理不尽さを描きだすのに駆使するのは、神実主義という手法だ。これは、世の隠れた真相をえぐりだす超リアリズムのこと。もはや神話のように現実離れしたものこそが、中国ではありのままの事実であるらしい。

 大躍進政策や文化大革命、あるいは「エイズ村」問題などを赤裸々に描き、幾度も発禁処分を受けてきた閻連科。『炸裂志』では、中国の過去から現在、そして未来までを疑似年代記の形で滑稽に映しだす。「閻連科」という有名作家が「巨額の報酬」につられて「炸裂市」の市史執筆を引き受ける、という設定からして、虚実ないまぜで素晴らしくいかがわしい。炸裂は北宋時代に噴火の避難地として出来た小村で、河と山脈にはさまれ、平地を擁する地理的好環境もあって発展。新中国の誕生を機に、民主選挙が初めて行われた村にもなり、巨大な都市へと急成長。その陰には、賄賂と汚職と不正選挙、そして盗人と娼婦たちの暗躍がある。念入りな色仕掛けあり、暴力あり。親子、兄弟、夫婦ですら信用ならない。ヒラリーもクリントンも大変な(!)目にあう―市はプロパガンダを期待しているが、そんなものを「閻連科」が書くわけがない。

 村開闢以来の旧家がふたつある。巨万の富と権力をもつ孔(コン)家、家長が人々に「吐きつけられた痰で溺れ死ぬ」という恥辱を味わった朱(チュー)家。孔の四兄弟は政治家、教師、軍人などになり、朱の娘穎(イン)は風俗店を営みつつ、父の敵を討つ機会を窺う。その中、村民委員会の美しい秘書の程菁(チョン・ジン)がやがて権力をもつに至る。

 炸裂「村」の成長と共に、村長の孔の次男も昇格していく。帝国を築いた支配者たちは自らを神とみなし、その力で空から文字通り雪を降らせることもできる。この幻想のごときものが、この国の現実なのだ。

『変身』でザムザが虫になった理由は明かされない。「なぜなら」のない「だから」だけの状況を不条理というが、中国の荒唐無稽さはそれとはまた違う。この国において、隠された因果は「存在しない」のと同じ。まさに、創世記で神が「光あれ」と言えば光が射す。そこに理由などないように。こうした「内なる因果」を暴くのに必要なのが神実主義というわけだ。面白すぎて言葉を失う。そんな翻訳文学は久しぶりだ。

新潮社 週刊新潮
2016年12月22日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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