真冬の怪談はいかが――『大江戸怪談 どたんばたん(土壇場譚)』ほか

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  • 大江戸怪談 どたんばたん(土壇場譚)
  • ロルドの恐怖劇場
  • 私の家では何も起こらない

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真冬の怪談はいかが 粒揃い、恐怖小説集!

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 真冬に食べるアイスクリームが格別の味わいであるように、真冬に聞く怪談もまた乙なもの。ということで、今年の秋に刊行された粒ぞろいの恐怖小説集をご紹介する。

 まず一冊目は平山夢明大江戸怪談 どたんばたん(土壇場譚)』。平山と言えば「『超』怖い話」シリーズなどの実話怪談を思い起こすが、本作は江戸を舞台にした時代物怪談である。杉浦日向子の漫画『百物語』(新潮文庫)に触発されて書いたという本書は、著者らしい残虐と可笑しみと、時代物のエッセンスが見事に融合した恐怖譚が集まっている。「饅頭女」や「転び童」のようにグロテスクでありながらどこかユーモラスな異形が登場する話から、「人独楽」のようなスプラッター全開の話まで平山流ホラーが百花繚乱。なかでも面に憑かれた男の凄絶な末路を綴った「神通面」は「もう止めてあげて!」と泣き叫びたくなるくらい、酷(ひど)い事が起きます。

 悲鳴が止まらない短編集と言えば、アンドレ・ド・ロルドロルドの恐怖劇場』(平岡敦編訳、ちくま文庫)は外せない。前世紀初頭に恐怖演劇で名を馳せた「グラン・ギニョル座」の座付き作家として活躍したロルドの傑作を収めている。猟奇殺人の場面を再現した蝋人形館、鉄格子の窓がずらりと並ぶ病院などなど、禍々しさに満ち溢れた舞台を用意し、最後の一文まで読者を恐怖に追い詰める容赦のなさは、「恐怖のプリンス」の異名に相応しい。残酷なだけでなく、“真の愛情”とは何かを恐怖の観点から問う「無言の苦しみ」のように、暗い詩情が漂う作品も味わい深い。

 ホラーの定番と言えば幽霊屋敷。恩田陸私の家では何も起こらない』(角川文庫)は、その幽霊屋敷譚を美しく、抒情的に描いた連作小説だ。小さな丘の上に立つ古い洋館に込められた、数々の惨劇の記憶を断片的に語る、ミステリの趣向もちりばめた幽霊屋敷の年代記である。シャーリイ・ジャクスン『たたり』、ダフネ・デュ・モーリア『レベッカ』といった、幽玄な小説がお好きな方はぜひどうぞ。

新潮社 週刊新潮
2016年12月22日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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