「国民的ヒット曲」が消えた、深いワケ
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
レコ大は腐り、紅白は黴び続けて早ン十年だもの、年の瀬が迫ってこなくたって「国民的ヒット曲」なんてのがもう絶滅危惧種であることは、何を今さら。
大衆から分衆へ、TVからネットへ、モノ(CD)からサービス(オンライン配信だのライブだの)へ、その他いろいろ、老若男女誰もが知ってるような曲が生まれないための条件がどんどん揃ってきてるからね。
……なんて素人の直観や知ったかぶりを、きっちり裏付けたり、きっちり修正したりして、邦楽の現在過去未来や表裏を見せてくれるのが『ヒットの崩壊』。
それだけでまず音楽好きには喜怒哀楽のタネ満載の濃い新書ながら、一方で、たとえ音楽趣味皆無のアナタでも読んでるうちにニッポンあるいは世界の社会、経済、文化、政治あたりにまで連想が広がっていく深い一冊でも、実はある。
AKBはオリコンチャートという制度を使い倒してノシ上がったと説かれれば安倍やトランプの顔まで浮かんでくるし、90年代のCD馬鹿売れはバブルで今こそが正常と聞かされれば、活字と音楽、それぞれのギョーカイの変化への対応の差に泣けてくるし。
それは著者の柴那典(ロッキング・オン出身の音楽ジャーナリスト)の目のつけどころ、配りどころが巧みなせいもあるとして、もうひとつ、流行り唄を語ると世の中を語ることになるという、流行や音楽と浮き世との関わりの根深さも大きくて、まさに歌は世につれ、世は歌につれ。