イケメン仕立屋と女子高生が日常の謎を解く『花を追え 仕立屋・琥珀と着物の迷宮』春坂咲月

レビュー

5
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花を追え

『花を追え』

著者
春坂 咲月 [著]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784150312527
発売日
2016/11/22
価格
886円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

イケメン仕立屋と女子高生が日常の謎を解く『花を追え 仕立屋・琥珀と着物の迷宮』春坂咲月

[レビュアー] 円堂都司昭

 第六回アガサ・クリスティー賞優秀賞を受賞し、これがデビュー作となる春坂咲月の『花を追え 仕立屋・琥珀と着物の迷宮』は、本の帯で「着物をめぐる和ミステリ」と銘打たれている。

 殺人のような大事件ではないが、身近に出くわした謎を年上の男性が知的に解く様子を、年下の女性の視点から語る。そのようなスタイルは、「日常の謎」と呼ばれるミステリ小説によくみられるものであり、本書も大枠はそれを踏襲している。ただ、視点人物となるヒロインが篠笛教室に通っているが着物を苦手とする女子高生・八重であり、探偵役となるのが着流し姿の仕立屋・宝紀琥珀であることが、物語に独特のムードを作り出している。

 前半では、着物を着るとなぜか泥棒になると思っている子ども、端切れで作られたシュシュにかけられたおまじないといった謎が解かれる。後半では、主要人物にまつわるより大きな謎が主題となる。もつれた出来事を解く鍵は、着物に関する知識だ。

 血腥(なまぐさ)い事件が出てこないという点では、本書は「日常の謎」に分類できる。だが、今の日本で着物と日常的に接している人は多くないわけだし、ファッションの一種としてチョイスするだけでなく、紋や柄が持っている意味まで真面目に考える人は少ないだろう。また、晴れ着などは特にそうだが、和装にはいつもの日常生活からちょっと浮き上がって、非日常に近づく感覚がある。だから、着物に関する蘊蓄で楽しませる本書は、現代を舞台にしていながら、タイムスリップしてファンタジーの世界に遊んでいるような気分にさせてくれる。美青年で変人の仕立屋・琥珀のキャラクターが魅力的だ。

光文社 小説宝石
2017年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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