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大森望「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2016-17
[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)
突拍子もない前提からリアルに物語を構築するのはSFの十八番。森岡浩之の文庫書き下ろし長編『突変世界 異境の水都』では、ある日突然、大阪市とその周辺が、500万近い住民ごと未開の異世界に飛ばされてしまう。人々はこの災厄をどう生き延びるのか? 小松左京『首都消失』の21世紀版/大阪版とも言うべきパニックSF巨編。600ページを一気に読ませる。2016年の日本SF大賞を受賞した『突変』の続編だが、『突変』の4年前に起きた“関西大移災”を描く前日譚なので、前作を未読でも大丈夫です。
宮内悠介『月と太陽の盤』は、著者初の本格ミステリ連作集。デビュー作となった第1回創元SF短編賞山田正紀賞受賞作「盤上の夜」と同じく、囲碁の世界が舞台だが、こちらは、理想の榧(かや)を求めて日本各地の山を放浪する碁盤師・吉井利仙を名探偵役に起用。囲碁と碁盤にまつわるさまざまな謎を解いてゆく。「あとは、盤面に線を引くだけです」が決めゼリフ。
常盤新平『翻訳出版編集後記』は、2013年に世を去った著者がまだ作家になる前、77〜79年に連載したエッセイの単行本化。早川書房の編集者だった時代(59〜69年)を振り返って、初代社長の早川清や翻訳の師と仰ぐ福島正実のほか、宮田昇や角川春樹、矢野浩三郎、青木日出雄など、翻訳出版に関わった人々との思い出を細やかに綴る。
『60年代ポップ少年』は、同じ頃に少年時代を過ごした亀和田武の自伝的エッセイ。「ジャズもマンガも、全共闘もSFも俺たちには全部ポップ文化だった」(帯より)という視点からもうひとつの60年代が浮上する。
最後の『X’mas Stories』は、三浦しをんのタイムスリップものや恩田陸の並行世界ものなど、ひねりの効いた6編を収める楽しいクリスマスアンソロジー。