縄田一男「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2016-17

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縄田一男「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2016-17

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

闇の平蔵』は作者の〈長谷川平蔵〉シリーズの第三弾で、これまでの中で最もミステリー色が強い。“闇の平蔵”の正体もさることながら、物語は作者の別シリーズ〈重蔵始末〉とリンク。平蔵は松平左金吾から魅力的な女密偵・可久を譲り受ける。が、いちばんの傑作は巻末の「音締めの松」。この伏線を見破れるのはよほどの読巧者であろう。

賤ヶ岳の鬼』は気鋭・吉川永青の会心作。“賤ヶ岳七本槍”に敗れた側の“鬼玄蕃”こと佐久間盛政の生涯を描く。作者は、はじめの三分の一は合戦シーンを最小限にとどめるか伝聞で伝えるかして、読者を焦らしに焦らし、残り三分の一で一気に戦いの全貌を描いていく。その迫力や再現力はもとより、捕えられた盛政がある種の歓喜の中で死んでいくラストまで見事に描かれている。

沈黙法廷』は、前半が警察小説、後半が法廷ミステリーというから佐々木譲版“ロー&オーダー”と思いきや、オリジナルの二枚も三枚も上をゆく傑作。五五七頁を一気読みさせる力作であり、ラスト三頁の切なさといったらどうだろうか。私は涙した。

鬼才 五社英雄の生涯』は、現時点における作者の最良の仕事であろうと思われる。アウトロー気質を装いながら、逆説的モラリストであった五社の生涯の軌跡が鮮やかによみがえる。彼の「御用金」や「人斬り」といった大作を思い浮かべるとき、こと時代劇に関して、私は黒澤明と工藤栄一と五社英雄は横一線ではないかと考えているが、いかがなものだろうか。

 最後は懐しい『深夜の市長』で幕といこう。昭和四十年代前半、私は中学生になり、いきなり当時の往年の大衆文学や異端文学のリバイバル・ブームとぶつかった。そのとき読んだ『深夜の市長』の奇想と推理は未だ色あせていなかった。

新潮社 週刊新潮
2016年12月29日・2017年1月5日新年特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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