<東北の本棚>女4人 悔恨と不全感と

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まっぷたつの先生

『まっぷたつの先生』

著者
木村 紅美 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784120048593
発売日
2016/06/22
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>女4人 悔恨と不全感と

[レビュアー] 河北新報

 立場の異なる4人の働く女性それぞれに、「こうありたい」と願う自分と実態とのずれがある。章ごとに主人公が入れ替わり、心の奥底に沈む悔恨や現状の不安定さと向き合う長編小説。過去をたどる視線は次第に接近し、ある者たちは20年の時を経て感情を交わらせる。
 東京のハウスメーカーに勤める32歳の建築士吉井律子は、小学5、6年時の担任だった堀部弓子と今も時々会い、食事を共にする間柄だ。弓子を介し、4年時の担任だった中村沙世とも再会する。リーダー格の自分を引き立て、生涯の仕事を決めるきっかけをくれた恩師。
 律子の職場にいる同い年の派遣社員猪股志保美もまた、沙世の教え子だった。志保美は仙台市出身。不倫がきっかけで東京から仙台に移り住んだ沙世は、いじめられる志保美を見て見ぬふりをした最低の教師。志保美は古里を離れた今も、暗い子ども時代の記憶にとらわれている。沙世に対して真逆の印象を持つ律子と志保美だが、そうした経緯はお互いに知らない。
 49歳になった沙世はとうに教職を離れているが、児童と真剣に向き合わなかった罪と罰のはざまにいた。ベテラン教師の弓子は若い教師の仕事ぶりに嫉妬し、児童の父に思いを寄せている。自信に満ち快活なはずの律子は、仕事と人間関係の両面で大きく自尊心を揺さぶられる。
 どんなに苦しくても過去は上書きできず、この先の日常が劇的に好転することはない。世間の多くがそう了解しつつ、自己不全感と折り合いをつけながら生きている。4人の言動もリアリティーを踏まえたまま、確かな説得力を持って再出発を期す作品世界に引き込んでゆく。
 著者は1976年兵庫県生まれ、東京都在住。小学6年から高校まで仙台市で過ごす。本書の舞台は東京だが、登場人物が東日本大震災の被災地支援に取り組む姿や、仙台のランドマークであるテレビ塔などの描写が随所にある。
 中央公論新社03(5299)1730=1728円。

河北新報
2016年11月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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