『日本まじない食図鑑』
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<東北の本棚>震災を機に力を再認識
[レビュアー] 河北新報
五穀豊穣(ほうじょう)や先祖供養の祈りを託し、供えたり食べたりする食材を「まじない食」と名付け、全国に根付く風習を紹介したのが本書だ。東北では遠野市の小正月料理や、にかほ市の掛魚(かけよ)まつりを紹介している。
遠野市では小正月の1月15日、ミズキの枝に団子を飾る豊作祈願の「ミズキ団子」やカラスに豆団子を放り厄よけを祈る「カラスよばり」などの行事がある。
にかほ市の掛魚は大漁や海上安全を願い、漁師らが大きなメスのタラを担いで練り歩き、タラ汁を振る舞う。地元の漁師が海難事故に遭ったのを機に約350年前に始まったとされる。
厄よけにショウガを奉納する「しょうが祭り」(東京都八王子市など)や夏の毒消しとしてナスをかたどったみこしを巡行する「なすとっかえ」(埼玉県狭山市)など、各地に残る食にまつわる民俗行事の多様さに驚かされる。写真も豊富。
「厳しい自然と向き合って暮らした時代だからこそ、命につながる願いを込めたまじない食が人々の心を支えたのだろう」とする考察に、納得した。
著者は鹿児島県生まれ。エッセイスト。旅や地方の食文化に関するコラムを数多く手掛ける。東日本大震災を機に、自然に対する畏怖と身近にある食べ物の呪術的な力を再認識。各地のまじない食を探し歩いた。
青弓社03(3265)8548=2160円