<東北の本棚>被災者本位の政策提言

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岐路に立つ震災復興

『岐路に立つ震災復興』

著者
長谷川 公一 [編集]/保母 武彦 [編集]/尾崎 寛直 [編集]
出版社
東京大学出版会
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784130561105
価格
7,150円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>被災者本位の政策提言

[レビュアー] 河北新報

 東日本大震災の被災地では防潮堤建設などハード面の事業が先行する。一方、被災者の生業やコミュニティーの再建は遅れが目立つ。社会学や財政学などを専攻する研究者が現地調査や聞き取りを重ね、被災者本位の復興の在り方を多角的に論じる。
 13氏が1章ずつ分担した。1~3章は長谷川公一・東北大大学院教授ら3氏の編者が総論を執筆した。長谷川氏は「選択と集中」という名目で居住地の集約や学校の統廃合を進める政策を批判する。国の縦割り行政や硬直的な支援制度を改め、住民参加によって「じっくり、ゆっくり」と合意形成を図るプロセスを進めるべきだと主張する。
 尾崎寛直・東京経済大准教授は再生の切り札として、移住者の受け入れが重要だと強調。保母武彦・島根大名誉教授は全国的に災害が多発する中、自治体職員の増員を提言する。
 4章は自治体の復興予算に関して財政学の立場から検証した。
 5~9章では農林水産業の復興を考察した。片山知史・東北大大学院教授は宮城県主導の「創造的復興政策」によって水産特区と漁港の集約化が推進され、漁村集落が存続の危機に陥ったと警告する。中川恵・米沢女子短大講師は原発事故による食品の放射能汚染問題について、「生協など民間の放射能測定が行政側への不信感を背景として行われ、生産者と消費者の関係構築に寄与した」と評価する。
 10~13章は地域主導のエネルギーシステム、被災者の見守り支援、被災地に住む外国人が抱える問題に光を当てる。
 被災地は全国的に課題になっている人口減少問題に直面し、解決の最前線に立たされている。本書が主張するように、住民中心でボトムアップ型の復興を目指すか否かが、日本の未来を決定付ける試金石となりそうだ。
 東京大学出版会03(6407)1069=7020円。

河北新報
2016年12月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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