受験で蒸発してしまった知識よ、今再び。赤本、青本より軽いです【自著を語る】

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大学入試問題で読み解く 「超」世界史・日本史

『大学入試問題で読み解く 「超」世界史・日本史』

著者
片山 杜秀 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784166611119
発売日
2016/12/20
価格
946円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

受験で蒸発してしまった知識よ、今再び。赤本、青本より軽いです

[文] 片山杜秀(評論家・思想史家)

――すると片山先生の場合は、歴史は趣味ですか。

片山 実はそういうところはあるのです。幼稚園時代から見まくった戦争映画と小学生でかぶれたNHK大河ドラマの影響で歴史は趣味になっていたのです。司馬遼太郎、海音寺潮五郎、吉川英治も愛読しました。中学高校ではクラブ活動は歴史研究部。実地見学を伴えるものを研究対象にするので、日本史オンリーで、休みには日本各地を巡っていました。東京に居りましたが、そこからどっちの方角にも行きましたね。網走刑務所とか、胆沢城とか、多賀城とか、会津若松とか、富士山一周浅間神社廻りとか、伊勢神宮とか、橿原神宮とか、丸岡城とか。京都はなんだかんだと行っていたなあ。回れるだけ回っておりました。

 ただ、顧問の先生が宮本常一の系統の人で。こちらは武将や軍人や政治家とか、あるいは官制とか、さらには宗教のような観念的なものに興味を持ちたがるのに対して、先生は「宮本民俗学」ですから、漁法や農法、漁具や農具、土地所有のならわしなどにこだわりがあって、子供としてはその面白さが分からない。大学以後、民俗学の本をやたら集めるようになっていって今日に及んでいますが、それはあくまで後のことで、東京暮らしで空想に走ってばかりの子供には、宮本常一の意味はなかなか分からなかったですね。なぜ、うちのクラブの部室には宮本常一の著作集が揃っているのかとか。漁網がどうした、国有林がどうしたと言われましてもね。中学生でクラブに入って初めて部室に入ったとき、すっかり首を傾げました。

 そういう謎や疑問はいつもたくさんありましたが、歴史が趣味で楽しみなのには変わりなく、そのせいで歴史の授業を暗記物で辛いと感じたことも一度もなかったですよ。釣りの好きな人が魚の名前を楽しく覚えるのと同じで。試験をされるのは気に入りませんが、好きなものは自ずと覚えるのが当たり前ですから。強いて勉める必要はまるでありませんでした。

 でも、大学入試は避けて通ろうとしていたせいで、大学入試の歴史の問題をやってみるということも、高校時代には予備校にも行かなかったし学校の授業時間に模擬的にやらされもしませんでしたから、この年になるまで実はまったくありませんでした。こうした問題が解けるか解けないかで人生が左右されるのか。改めてびっくり。避けて通って逃げおおせて時効もとっくに迎えたと安心していたら、一生分が突然、降ってきた感じですね。人生、どこかで帳尻は何者かの力によって合わせられてしまうものだなあと。

文藝春秋BOOKS
2017年1月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

文藝春秋

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