漱石全集をめぐる百年の出版史
[レビュアー] 図書新聞
一九一六年十二月九日に亡くなった夏目漱石は今年没後百年、来年は生誕百五十年という大きな節目にあたる。そのせいだろう、まるで現役の売れっ子作家のように関連書の刊行が相次いでいる。十二月には岩波書店から『定本漱石全集』の刊行もはじまる。いったい何種類目の漱石全集なのだろう。数ある漱石全集はいったいなぜこれほど生まれつづけているのだろう。どのような思いから生まれ、どのような違いがあって生まれ得るのか。これは作家・漱石の伝記ではない。漱石全集の「伝記」だ。ひとつひとつの全集を仔細にみていくことで浮かび上がってくる全集づくりに関わる人びとの熱い思い。そこに個人全集をめぐる出版史の一側面が現れる。矢口進也が著した漱石全集からみる日本の出版史、待望の文庫化。(11・16刊、二四二頁・本体九二〇円・岩波現代文庫)