ゲーム批評的青春ミステリー
[レビュアー] 図書新聞
解説の福井健太が書くとおり、詠坂は「得体の知れない作家」である。本作によってその思いはますます強まった。不思議なタイトルは、業務用ゲームではおなじみだった「コインを入れてください」のこと。スーパーマリオ、ぷよぷよ、ドラゴンクエストなど名作ゲームを素材にした、5編の青春ミステリーだ。ゲーム誌ライターの柵馬が、名作に秘められた謎を追う。その行為は、自身の過去・現在・未来を探究する道程でもある。謎の解明は決してハッピーなものではない。しかしビターな結論だからこそ、立ち止まる己の背中を押してくれるということはある。ゲーム批評としても秀逸で、単なるノスタルジーではない、ゲーム愛に満ち溢れている。著者名の由来は、ドラクエを生んだ堀井雄二とのこと。(10・20刊、二七六頁・本体八〇〇円・光文社文庫)