『世にも奇妙な人体実験の歴史』ほか 科学的探究書3冊

レビュー

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  • 世にも奇妙な人体実験の歴史
  • 人間はどこまで耐えられるのか
  • 家庭の科学

書籍情報:版元ドットコム

自分ではやりたくない!科学的探究書3冊

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 マッド・サイエンティストといえば研究のためなら平然と他人の身体を実験台にする姿が浮かぶ。だが、トレヴァー・ノートンのノンフィクション『世にも奇妙な人体実験の歴史』(赤根洋子訳)に出てくる科学者たちは違う。彼らは時に、自分の身体で人体実験を行ったのだ。しかも、かなり無謀な方法で。

 淋病と梅毒の感染源の確認のために患者の膿を自分の身体に付着させた医師、麻酔の効果を試すうちに中毒患者になった研究者、自説を証明するためにコレラ菌入りの水を飲みほした科学者……。食欲を失うほどグロテスクな話が盛り沢山だが、著者の筆致はユーモアたっぷりで笑わせる。

 医学の進歩のために自己犠牲を厭わなかった人々といえば美しく聞こえるが、たいていは命に危険が及ぶとは思わずに実験に臨んだふしがある。その時彼らを動かしたのは使命感か功名心か、過剰な好奇心か。その世にも奇妙な心理状況にも興味がわいてくる。

 身をもって科学する、といえば生理学者フランセス・アッシュクロフト人間はどこまで耐えられるのか』(矢羽野薫訳、河出文庫)もユニークな一冊。人の身体がどの程度の「高さ」「深さ」「暑さ」「寒さ」に耐えられるか、著者自身の体験をまじえて語っている。

 高度一万八九〇〇メートル以上では血液が体温で「沸騰する」、寒いところでは体内で生成される尿が増えるといった現象とそのメカニズムが分かりやすく解説され、サバイバルのための知識としても役立つかも、と思わせる(そんな状況にはなりたくないが)。後半は「宇宙では生きていけるのか」「生命はどこまで耐えられるのか」とテーマが壮大になるのも読みごたえあり。

 さらに身近な内容といえばピーター・J・ベントリー家庭の科学』(三枝小夜子訳、新潮文庫)だ。朝寝坊したのは睡眠のリズムの状態のせい、浴室ですべって転んだのはこぼれたシャンプーの性質のため。日常生活の朝から晩までに起こりうる小さな災難の理由を科学的に説明する。自分たちが日々、身をもって科学していることに気づく一冊だ。

新潮社 週刊新潮
2017年1月12日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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