“サラリーマン”司馬遼太郎による名言集

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ビジネスエリートの新論語

『ビジネスエリートの新論語』

著者
司馬 遼太郎 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784166611102
発売日
2016/12/09
価格
929円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ヤング司馬遼太郎の名言エッセイ集

[レビュアー] 碓井広義(上智大学文学部新聞学科教授)

 弘兼憲史の漫画『課長島耕作』シリーズの一つに、『ヤング島耕作』がある。主人公が新入社員だった頃から主任時代まで、その成長の日々を描いている。司馬遼太郎ビジネスエリートの新論語』で読者が出会うのは、いわばヤング司馬遼太郎だ。

 元本である『名言随筆サラリーマン』が出版されたのは1955(昭和30)年。著者は産経新聞文化部記者、32歳の福田定一だった。司馬遼太郎という筆名の作家が登場する直前のことだ。

 本書は司馬本人が「昭和の論語を編むというオソルベキ考えはサラサラない」と書くように、ざっくばらんな口調による、肩の凝らない名言エッセイである。

 たとえば、「明日のことを思い煩うな」という新約聖書の言葉を引きながら、若いサラリーマンは定年後の生活や資本主義の将来を心配するより、今日を充実させるのが賢明な生き方だと説く。「どうせ三十年後は社会保障ぐらいは仕上っているだろうとタカをくくっておればよい」といった乱暴なもの言いが、ヤング司馬の魅力だ。

 また、鍍金(めっき)を金に見せる苦労より真鍮(しんちゅう)相当の侮蔑を我慢するほうが楽だとする夏目漱石に対し、真鍮は真鍮なりの光があると主張。「その光の尊さをみつけた人が、平安期の名僧最澄だった」と、後の司馬作品に繋がる抵抗ぶりが頼もしい。

 加えて本書は、実用的処世術から職場恋愛まで、約60年前のサラリーマン社会を垣間見せてくれる、貴重な同時代記録でもある。

新潮社 週刊新潮
2017年1月12日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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