『恐怖の地政学 地図と地形でわかる戦争・紛争の構図』 T・マーシャル著

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

恐怖の地政学

『恐怖の地政学』

著者
T・マーシャル [著]/甲斐理恵子 [訳]
出版社
さくら舎
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784865810769
発売日
2016/11/04
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『恐怖の地政学 地図と地形でわかる戦争・紛争の構図』 T・マーシャル著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

地理で謎解く国際情勢

 本書は(長い副題にあるとおり)世界情勢のきな臭い部分を主に取り上げているので、確かに「恐怖の」という表現がふさわしい。が、原題もずばりと的確だ。世界中のあらゆる国家は等しくその置かれた土地の地理や地形の虜囚であり、ある国の有り様(よう)の根本を(否応(いやおう)なしに)定めてしまうのはその土地の自然条件なのだ、と。

 地政学とは、「国際情勢を理解するために地理的要因に注目する学問である」。地理学と国際政治学の組み合わせ? ううう、専門性が強くて難しそうカンベンしてください――と思いつつひもといてみると、あら不思議! まったく難しくない。むしろ、今まで時事解説などを読んでもよくわからなかった国際紛争の肝心なところがすんなり頭に入ってくる。

 本書の構成は全十章。世界をおおまかに十の地域に分け、各々(おのおの)に一章ずつ振り当てて分析と解説を加えている。この章題がまた絶妙に上手(うま)くて、たとえば中国は「自然の巨大要塞と十四億の巨大不安」。ロシアは「果てしない大地と凍り続ける港」。アメリカは「地形によって運命づけられた史上最強の国」。私たちの常識レベルの知識でもピンとくる言葉が並んでいる。中国を要塞化している要素って、ヒマラヤ山脈とゴビ砂漠のことかな。そうか、ロシアはあんなに広いけど、不凍港が一つもないほど寒いんだね。それに比べてアメリカの気候と自然の豊かなことよ。もしもこれが逆だったら、世界はどうなっていただろう?

 地理学を土台に、ここに山脈がありここに大平原がありここに大河がある、だからこの国の歴史はかくかく外交戦略はしかじかで、今はこんな問題を抱えているわけか――と謎解きしてゆく本書を読む際は、地形が立体的に描かれているカラーの世界地図(実は、メルカトル図法のものは第六章始めに記されている理由でベストではないのだけど)をお手元にどうぞ。甲斐理恵子訳。

 ◇Tim Marshall=英国のジャーナリスト。英国のニュース専門局で中東特派員などを経験。

 さくら舎 1800円

読売新聞
2017年1月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加