『バブル 日本迷走の原点』 永野健二著

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バブル

『バブル』

著者
永野 健二 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103505211
発売日
2016/11/18
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『バブル 日本迷走の原点』 永野健二著

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

複雑怪奇な熱狂綴る

 日本経済新聞証券部の記者だった著者の永野健二氏は、長年にわたって日本経済の最前線を取材してきた人だ。30年前、日本があのバブル景気に沸いていた頃、彼は脂の乗った30歳代の記者として、様々な魑魅魍魎(ちみもうりょう)の蠢(うごめ)く金融・不動産業界の深部に触れていた。本書はそんな一人の経済記者が、当時の熱狂とは何であったのかを綴(つづ)った“歴史書”である。

 ノンフィクションには、「時代」によって呼び寄せられたとしか思えない作品、というものがときおり現れる。私は本書を読み終えたとき、この本もまたそのうちの一つだ、という感想を抱いた。それだけの迫力とアクチュアリティが、一つひとつの描写から匂い立ってきたからだ。

 その叙述はバブル前史としての「三光汽船のジャパンライン買収事件」に始まり、山一証券や日本興業銀行、住友銀行、野村証券、大蔵省という数多くのプレイヤーの姿を描きながら、いくつもの分岐点や分水嶺(れい)の存在を指し示している。

 膨大な出来事の点と点をいかに繋(つな)ぎ、全体像やシステムの歪(ゆが)みをどう描くか。善人と悪人、理想を掲げる者、反骨の経営者、権力の振る舞い……。著者の描写は自らが見た多くの事実の意味を熟成させ、蒸留していったかのようだ。また、膨大な金を稼ぎ、最後には堕(お)ちていった人々に対する視線の奥深さに味わいがある。〈壮大な増殖と崩壊のドラマ〉の末に死に、塀の下に落ちたバブル紳士たちの存在を、著者はときに旧来のシステムに風穴を開けようとした勢力として捉え直しており、そのことが本書を血の通った一個のノンフィクション作品にしている。

 複雑怪奇で日本的な要因の絡む現代経済史を、「いま」の問題として世に問うた切実な思いが、日経連の会長だった父とのあるエピソードとともに「あとがき」で綴られていた。この本を「バブルを知らない世代」にこそ読んでほしいという思いを、1979年生まれの私はしかと受け止めたいと感じた。

 ◇ながの・けんじ=1949年、東京都生まれ。日経新聞証券部記者、編集委員、BSジャパン社長などを歴任。

 新潮社 1700円

読売新聞
2017年1月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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