『日米開戦と情報戦』 森山優著

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日米開戦と情報戦

『日米開戦と情報戦』

著者
森山 優 [著]
出版社
講談社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784062883986
発売日
2016/11/16
価格
950円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『日米開戦と情報戦』 森山優著

[レビュアー] 奈良岡聰智(政治史学者・京大教授)

政策決定過程を考察

 一九四一年の日米開戦は必然ではなかった。それは多くの選択や錯誤が積み重なった結果であり、開戦過程は、きわめて紆余(うよ)曲折に満ちていた。そのため、歴史家たちは今なお熱心に、戦争の原因や目的が何だったのかを議論し続けている。

 本書は、こうした研究を牽引(けんいん)してきた著者が、日米開戦の過程を実証的に再検討したものである。前著『日本はなぜ開戦に踏み切ったか』(新潮選書)が、一九四一年七月末の南部仏印進駐以降を扱ったのに対し、本書はそれ以前および情報戦という側面にも焦点を当てている。前著と同様、「両論併記」と「非決定」という一貫した視点から日本の政策決定過程が考察されており、分かりやすい。

 最も興味深いのは、インテリジェンスについての分析である。アメリカが開戦前から日本の外交電報などを解読していたことはよく知られている。一方で、日本は情報戦に完敗したというイメージが流布している。しかし、実際のところ、アメリカの暗号解読は正しい情勢判断や巧みな外交につながったわけではないし、日本が暗号解読の実績において、英米にそれほど劣っていたわけでもなかった。本書はこのことを、日本政府が策定した「国策」文書の伝達過程や、日本の南部仏印進駐に対する英米の反応などから、具体的に明らかにしている。

 著者は、日米双方で暗号解読情報に接した多くの者たちが情勢判断を誤り、むしろ相手国に対する不信感を募らせてしまったと結論付けている。また、アメリカ政府が日本に「最初の一弾」を撃たせることを意識していたとしつつも、戦争の全体像や暗号解読の実態から、いわゆる真珠湾攻撃陰謀説については明快に否定している。いずれも説得力があり、インテリジェンスの有効活用に何が必要なのかを考えさせられる。情報史研究の醍醐(だいご)味が味わえる好著である。

 ◇もりやま・あつし=1962年、福岡市生まれ。静岡県立大准教授。専門は日本近現代史、インテリジェンス研究など。

 講談社現代新書 880円

読売新聞
2017年1月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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