<東北の本棚>世界遺産を学ぶ 日本の文化遺産から
[レビュアー] 河北新報
世界遺産の登録は大きな注目を集める一方、登録への道のりや意義が十分理解されているとは言いがたい。本書は2011年に登録された岩手・平泉の文化遺産などを例として、審議の過程で浮かんだ課題や地域との関わりを考える。
13年、東北大東北アジア研究センターが仙台市で開いた公開講演会に基づき、研究者2人の講演と1人の論文をまとめた。
1972年以降、1000件を超える世界遺産が登録された。当初は西欧の石造りの建築に評価が偏ったため批判を浴び、木材や土を用いた法隆寺や姫路城などの登録につながった。
こうした経緯を踏まえて入間田宣夫・東北大名誉教授は「(審議機関は)進化のプロセスの真っただ中にある」と指摘。「進化を後押しするためにも、平泉の文化遺産に不可欠な柳之御所遺跡などの追加登録を実現すべきだ」と強調する。
島根・石見銀山遺跡は07年に登録。仲野義文・石見銀山資料館長は「地道な学術調査に加え、住民たちが銀山町に暮らすアイデンティティーを受け継ぎ、登録に結び付いた」と語る。
荒武賢一朗・東北大准教授は文化財の保全と観光振興の思惑がぶつかる問題について「なぜ世界遺産は重要なのか共有することが大切だ」と述べる。
東北大学出版会022(214)2777=2160円