2017年にむけて読むべき“日本迷走の原点”

レビュー

8
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バブル

『バブル』

著者
永野 健二 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103505211
発売日
2016/11/18
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

三国志のような濃度のバブル紳士列伝!

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 バブル時代を思い出すことがある。ミラーボールが煌めき、景気よくお金が使われて浮かれ騒ぎ、幸せが永遠に続くと信じていた頃。だが膨らんだ風船が萎み、部屋の片隅で潰れていくように、その夢は消え去った。

 本書はバブル時代の大本と考えられる、1971年に表面化した三光汽船によるジャパンライン株買い占め事件から稿を起こす。銀行に頼らず巨額の資金調達が可能であることを示し、運輸省と日本興業銀行が作り上げたカルテル体制に刃向ったこの一件は、交渉の窓口である興銀が裏の人脈を使うことで和解を得たとする。

 続く70年代の終わり、株式市場では仕手グループによる株の買い占めが激しさを増す。「兜町の風雲児」と呼ばれ、昨年末に亡くなった誠備グループの加藤暠(あきら)、笹川良一の息子の陽平、投資ジャーナル事件の中江滋樹など懐かしい名前が躍り、バブル時代の前哨戦を描いていく。

 バブル時代のスタートは85年のプラザ合意だと著者はいう。80年代前半の金融自由化によって資金の運用や調達の手段が増えたことで、企業の「財テク」が始まった。企業が独自に金を工面できることで弱体化した銀行は土地融資に乗り出した。

 日本人の「土地は絶対に安くならない」という神話も相まって、途轍もない値上がりが始まる。3000万円ほどの建売住宅が、半年後には1億円になっていった背景を、本書は時系列で解き明かす。裏事情を全く知らなかった私にとって、政界と財界、そして世界情勢との複雑な関係性を俯瞰できたことは大きな収穫だった。

 本書は三国志正史のような列伝として読むことができる。登場する人物はすべて一冊の小説になるほど濃い時代を過ごしていた。バブルを知らない若者はもちろんのこと、私のように何も知らずに過ごしてしまった人にとっても、世界情勢が大きな転機を迎えるであろう2017年にむけて、いま読むべき一冊である。

新潮社 週刊新潮
2017年1月19日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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