「新国立」コンペ連敗の著者が語った、現代日本の建築のあり方

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日本語の建築

『日本語の建築』

著者
伊東豊雄 [著]
出版社
PHP研究所
ISBN
9784569832036
発売日
2016/11/16
価格
902円(税込)

新国立競技場のコンペの裏側は?

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 もとはインタビューだった内容を、ライターが文章化。新鮮な「いま」を切りとる手法として悪くないと思う。伊東豊雄日本語の建築』は、例の新国立競技場コンペを語ることから始まる。最初のデザイン・コンクールでは、建造物の高さ・敷地などの条件をすべて無視したザハ案に負け、それが白紙に戻されたあとのコンペでも隈研吾案に敗れた。しかし著者は、自分としては「三連敗」だという。最初のコンペのあと、少ない予算で合理的な変更が加えられる改修案を発表したが、手ごたえはなし。

 コンペのどの過程でも、選考した人の思想・哲学は見えてこないし、そもそも改修か建て替えかを誰がどう決めたのかも不透明。

 コンペの結果はくつがえらないとしても、設計案それぞれの思想は知っておきたい。大急ぎで決めてしまえば国民はもう審査内容など振り返らないとたかをくくっている人たちに、いまからでも、いつまでかかっても、各案をじっくり比較検討する姿勢を見せようではないか。わたしは今後も、コンペに参加した人たちの考えを聞いていきたい。

 この本には、現代日本の建築はいかにあるべきかを考えるためのヒントが多い。日本人の感受性やもののとらえ方の基礎が日本語にあるとすれば、建築もまた、日本語独特の言い回しや表現方法を、見える・さわれるモノとして表していくものであるはずだ。自分の場合はそれをこのように具現化したという、いさぎよい現場報告である。

新潮社 週刊新潮
2017年1月19日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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