“東京は日帰り登山の聖地”って知ってますか? 未知なる絶景に出会える低山・ベスト3
登山といえば“高い山”をイメージしますが、大内征さんは“低い山”を推奨しながら山旅のガイドを続けています。「世界有数の大都会・東京は、日本屈指の日帰り登山の聖地」と説き、地方出身者ならではの着眼点と美しい写真で、首都圏近郊のとっておき低山30座を近刊『低山トラベル』(二見書房)でも紹介しました。
現在はNHK「ラジオ深夜便」にも出演中。「低い山を目指せ!」コーナーで、低山トラベルの面白さを語り、好評を博しています。大内さんが説く新しい登山スタイルについて伺いました。
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――大内さんがオススメの“低山”は、どのくらいの高さですか?
低い山は300mくらいから、高い山は1000mを超えるものまで、要はスタート地点(登山口)からの標高差ですね。クルマや公共交通で高いところまで行ける山もありますからね。つまり、気楽に日帰りの山旅ができる低い名山を探して登っています。
――なぜ低山を求めて登ることに?
登山を始めて間もない頃は、有名なとくに日本百名山を主に通ったものです。ところが、身近な山、例えば東京の奥多摩や埼玉、山梨といった東京近郊の山々に足を踏み入れてみると、そこに意外な面白さがころがっていたのです。高い山では感じられない里山の気配というか、低い山だからこそ残っている人の営みのようなもの。これに気づいてからは、低山に行く頻度がぐーんと増えました。
――その面白さや魅力って、具体的にいうと?
低い山の山麓には、暮らしの文化、祈りと修行の場、さらに戦の跡や隣国との商いの道など、歴史物語が伝わっています。それが登山と結びつくと、しばしば意外な発見に遭遇します。古都を旅して寺社巡りをするように、低山トラベルならではの愉しみですね。日本再発見の一つの「手段」だと思っています。ピークハント(登頂)ばかりにとらわれていると、麓に点在する物語を見逃します。出かける前に、山のプロフィールや歴史的な背景なども掘っておくと、途中で見聞きしたことが、ふいに繋がって登山が立体的になるんです。そして、何といっても山岳展望でしょう。未知のアングルから眺める名山の絶景、これはやはり醍醐味です。
――その“未知なる絶景”に出合える低山、ベスト3は?
3つ選ぶのはとても難しいですね(笑)。いずれも歴史や地域伝承が残る3山です。ぜひ、日帰りで“日本再発見”の山旅を愉しんでください。
標高500m未満だと、房総の「伊予ヶ岳」は本当に素晴らしい低山。高い山がまったくない千葉県ですが、水平線まで波打つ美しい山並には見とれてしまいます。千葉のマッターホルンと異名をもつほど面白い岩登りを経ると、眼前にきれいな双耳峰の富山(とみさん)が聳えています。
標高1000m未満は、伊豆の「達磨山」がおすすめ。駿河湾を眺めながら防火帯の芝生道を歩くのは最高に気持ちがよく、振り返れば海越しに沼津アルプス、愛鷹山、そして富士山。絶景すぎてしばし時を忘れます。
標高1500m未満なら、山梨の「竜ヶ岳」を推したいですね。目の前に大きく広がる富士山と、この竜の山との関係。稜線を歩きながら、スケールの大きい絶景を堪能できます。
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プロフィール
大内征(おおうち・せい)
1972年生まれ、宮城県仙台市出身。東京都武蔵野市在住。低山に秘められた歴史や伝承物語をたどって、日本各地を旅する低山トラベラー。独自の登山スタイルを探究しながら山旅のガイドをしている。かたわら、メディア活動や教養講座を通じて、知られざる山の魅力と好奇心を呼び覚ます、新たな山物語を発信している。NHKラジオ深夜便『旅の達人~低い山を目指せ!』にレギュラー出演中。「自由大学」の人気講座『東京・日帰り登山ライフ』の教授を務め、ピークハントにとらわれない登山の面白さを、“山好き・旅好き”と分かちあう場をつくっている。各地の手書き地図の面白さを伝える「手書き地図推進委員会」研究員。ロハスクラブと環境省が催す「ロハスデザイン大賞2015」コト部門の最終選考にノミネート。自治体や教育分野から注目を集めている。