『トヨタ公式 ダンドリの教科書』
- 著者
- トヨタ自動車株式会社 業務品質改善部 [編集]/佐々木眞一 [監修]
- 出版社
- ダイヤモンド社
- ジャンル
- 社会科学/経営
- ISBN
- 9784478100745
- 発売日
- 2016/11/26
- 価格
- 1,650円(税込)
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トヨタ流、仕事の目的・目標を明確にする7つのポイント
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
トヨタのノウハウを扱った書籍は数あれど、『トヨタ公式 ダンドリの教科書』(トヨタ自動車株式会社 業務品質改善部編、佐々木眞一監修)は少し違いそうです。なにしろトヨタが編集し、同社の顧問・技監が関与する「トヨタ公式」なのですから。
ところでトヨタについては、工場現場においての技術の高さに対する評価をよく耳にします。しかし、オフィスで働くホワイトカラーの仕事がすごいとは、誰も口にしてくれないのではないか? そんな危機感から、同社では2007年からホワイトカラーの「仕事の進め方改革」をスタートさせたのだそうです。
誰もが一生懸命にがんばっているのです。ところが結果が出ない。それはおかしいはずです。そもそも仕事の仕組み=仕事の進め方にこそ、問題がある。そんな理不尽な仕事をなくすために、仕事の進め方を変える。
トヨタの新たな取り組みとは、ホワイトカラーの仕事の進め方を変える全社的な取り組みでした。がんばっているのに成果が出ない、という理不尽な仕事をなくすために、トヨタ全社で進めている仕事術です。(「はじめに」より)
ホワイトカラーの仕事には少なからず、結果のよさだけを求める傾向があるもの。しかしそれでは、よい結果のときはさておき、よい結果が出なかったときには、ダンドリそのものに、問題があったとしても、なかなかそこに立ち戻ることは困難。再びよくない結果をもたらしてしまう可能性すらあるでしょう。
そこで、 どのような状況においても正しい結果が得られ、安心して仕事ができるように考えられたのが「トヨタの仕事術」だということ。きょうは8つのポイントのなかから、基本というべきPoint1「仕事の目的・目標(到達レベル)を明確にする」をクローズアップしてみたいと思います。
ノウハウ1 前回の目的とともに目標と結果のギャップを把握する
仕事の多くは前任者がいたり、あるいは過去にすでに行われていたりするものです。当然ながら、過去につくられた資料やデータが残されていることも少なくありません。そこで大切なのは、前回設定された目的を把握するとともに、目標と実施した結果とのギャップを確認すること。そのギャップをどのレベルまで改善すべきか考えることで、目標が具体的なものになるというわけです。
また、前回の時点で目標を達成していたならば、一段高いレベルの目的・目標を立てるとよいそうです。(38ページより)
ノウハウ2 仕事の背景との整合性を確認する
組織の役割・ビジョン、プロジェクトの目的・目標、仕事が設定された背景との整合性を確認。それぞれの仕事は、組織の役割・ビジョンの達成やプロジェクトの目的・目標を達成するために存在するものだといいます。
そして仕事の目的・目標は、そうした上位の目標との整合性を確認することによって、はっきりしたものになっていくもの。また、「その仕事がなぜ設定されたのか」を上司や関係者に確認することで、目的・目標を明確にすることが可能だとか。(38ページより)
ノウハウ3 現状のレベルを確認する
なんらかの問題・課題が認識されているために生まれた仕事であれば、その状況や現状のレベルを把握していくことが重要。そして、その状況やレベルをどこまで改善するのかを考えるわけです。
目標(到達レベル)を設定していく際、きわめて重要になるのが現状の確認。なぜなら現状を把握しないまま目標を設定してしまうと、正しい目標設定ができなくなる危険があるから。
目標設定をするときに「いま、どこにいるのか」がわからないと、目標が高すぎたり、低すぎたりしてしまうことがあるのだそうです。たとえば「組織の英語力を高めること」が仕事の目的になっていたとします。そんなとき、現在の組織のTOEICの平均点が400点なのか、それとも600点なのかによって、まずはどのレベルを目標とするべきかが変わってくるわけです。
つまり現状をよく知ることで、妥当な目標値が設定できるということです。(39ページより)
ノウハウ4 予算や納期など、制約条件を確認する
ほとんどの仕事には、なんらかの制約条件があります。「なんでも自由にやっていい」ということは、まずあり得ないわけです。そして仕事の目標(到達レベル)の設定のためにも大切なことは、そうした制約条件を確認していくことだといいます。
たとえば予算や納期など、すでに設定されている目標の要素はないか? 達成すべき目標レベルが上位方針に設定されていないか? 法規やルール、安全、環境、コンプライアンスなど、目標に考慮する必要はないかを考えるということ。
目標(到達レベル)を明確にしていく際には、こうした制約条件を確認しておくことが重要だという考え方です。(40ページより)
ノウハウ5 エンドユーザーまでのつながりを理解する
エンドユーザーまでのつながり、さらには、各お客さまのニーズを考える。すべての仕事はエンドユーザーにつながっているため、ニーズを認識することはあらゆる仕事において大きな意味を持つということです。
自分が仕事として手がけ、作成したアウトプットは、どのようにエンドユーザーまでつながっていて、それを社内外で誰が使うのか? 大切なのは、エンドユーザーまでのつながりに加え、そこまでイメージすること。そうすることで、目的・目標を明確にできるわけです。
たとえば自動車なら、エンドユーザーが求めているのは「安くて品質のよい車を購入したい」ということであるはず。だとすると、そのために設計担当者はどんなことを考えておかなければいけないのかがわかります。
そして、そのときに大切になるのが、それぞれのお客さまのニーズを考えること。自分が設計の仕事を手がけたとしても、それがエンドユーザーにたどりつくまでに、多くのお客さまがいるもの。そこで自分の設計の仕事が、あとの工程=「お客さま」の間でどのように使われていくのかを考え、必要であればあとの工程に確認する。そこでなにが求められているのか、意識するわけです。
多くの場合、自分の仕事のすぐあとの工程まではイメージできることでしょう。しかし実は自分の仕事は、エンドユーザーにたどりつくまでの、さまざまな工程でお客さまを持っているもの。そのことを、できる限りイメージすることが重要だという考え方です。
自分のアウトプットがどこで使われ、それぞれの工程でなにが要望されているのか、広くニーズを把握していく。そうすることで、エンドユーザーにも、それぞれの工程でも評価される、いい仕事ができるようになるのだということです。(41ページより)
ノウハウ6 目標は「QCD」などの視点で考える
「QCD」とは、「クオリティ(quality 質)」「クオンティティ(quantity 量)」「コスト(cost) 価格」「デリバリー(delivery 納期)」のこと。目標はQCDの視点で考え、それらが定量的で、測れるのかをも考える必要があるというのです。
QCDの切り口で考えると、目標はモレが少なくなるのだといいます。また、可能であればそれを定量的にすることで、目指すレベルが明確になるのだそうです。また、法規やルール・安全・環境・コンプライアンスなどの項目を考える必要のある仕事もあるのだとか。
QCDは、さまざまな仕事に当てはめて考えることが可能。それが、的確な目標を設定する際のヒントになるといいます。(44ページより)
ノウハウ7 ベンチマーキングできるものを考える
仕事の目標を考えるとき参考になるのが、他の同じような仕事や他部、さらには他者をベンチマーキングすること。まずは自分自身で、同じような仕事を過去にやったことがないかと考えてみる。もしあるのなら、それは今回の仕事の目的や目標を設定するにあたっての参考になるわけです。
また、同じような仕事をしている他の部署、グループ、他社についてもベンチマーキングできないか、考えてみることも大切だそうです。(46ページより)
マンガやイラスト、図版などを豊富に盛り込みながら、すべてが簡潔にまとめられています。とてもわかりやすいので、トヨタのメソッドを効率的に身につけることができそうです。
(印南敦史)