『五つ星をつけてよ』 奥田亜希子著

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五つ星をつけてよ

『五つ星をつけてよ』

著者
奥田 亜希子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103504313
発売日
2016/10/21
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『五つ星をつけてよ』 奥田亜希子著

[レビュアー] 朝井リョウ(作家)

個人の揺らぎを掬う

 女子高生同士のLINE、独り暮らしとなった高齢者が始めたブログ、カメラ好き青年が使う写真共有サイト――収録されている六つの物語には、既に使い慣れている人も多い様々なツールが手触りを変えて登場する。てのひらサイズのそれらは一見手軽な存在だが、確かな熱を発し、そこに暮らす人々の体温を乱していく。

 前作『ファミリー・レス』の完成度の高さが話題になった著者だが、今作でも一編一編が結晶のような繊細な輝きを放っている。その中でもやはり表題作には触れておきたい。

 パンの配達をしながら母親の介護をしている主人公は、その多忙さゆえ、全商品のレビューを見られるネットショップと事業所のホームヘルパーを利用している。母親とヘルパーの関係性の良さに安心していたが、やがて事業所に関する不穏な噂(うわさ)を耳にする。母親のけがとその噂のタイミングが重なり、主人公はヘルパーを替えるべきかどうか逡巡(しゅんじゅん)し始めるが、ヘルパーをレビューできる者がいるとすれば認知症が進んでいる母親のみで、なかなか決断ができない。

 私もレビュー形式のネットショップをよく利用する。偏った意見が多いことは百も承知、そこにある評価を鵜呑(うの)みにすることはないが、評価を下した個人の中にだって揺らぎがあるという忘れがちな事実を著者は丁寧に掬(すく)い上げている。ネットの炎上現象等に見られる匿名の集団については多くの小説が既に言及しているが、たった一人が抱く揺らぎもネット上には表出しにくいという発見は大変新鮮だった。そして、著者はその発見をそれとして書かない。物語という甘い皮でコーティングをするので、異物感がない状態で、著者の発見を飲み下せるのだ。

 1編目の「キャンディ・イン・ポケット」は、LINEが普及し定着し始めた“新たな通説”を密(ひそ)かに裏返す。使われる物、使う者、どちらもが進化し続ける現代、私はこれからも著者の作品から様々な気づきを得る予感がする。

 ◇おくだ・あきこ=1983年、愛知県生まれ。2013年、『左目に映る星』ですばる文学賞を受賞。

 新潮社 1600円

読売新聞
2017年1月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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