『「正しい政策」がないならどうすべきか』 ジョナサン・ウルフ著

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「正しい政策」がないならどうすべきか

『「正しい政策」がないならどうすべきか』

著者
ジョナサン・ウルフ [著]/大澤津 [訳]/原田健二朗 [訳]
出版社
勁草書房
ISBN
9784326154401
発売日
2016/10/28
価格
3,456円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『「正しい政策」がないならどうすべきか』 ジョナサン・ウルフ著

[レビュアー] 柳川範之(経済学者・東京大学教授)

解きほぐして考える

 昨今、どちらかといえば、声高に政策が主張されることが多い気がする。自分が望ましいと考える政策を一方的に訴え、相手の主張を言下に退ける。そういう主張のほうが、ネット時代には受け入れやすい面があるのかもしれない。

 しかし、実際には何が正しい政策なのかは、観点が違うと随分と異なる。あるいはじっくり考えてみると、どちらともいえないという政策も多い。

 本書の原題は直訳すると「倫理と公共政策」だが、それをこの邦題にしたのが秀逸。読者に政策をじっくり考えることの重要性を広く訴えかけるタイトルになった。

 取り上げられている内容は、動物実験やギャンブル、ドラッグ、危険性に関する規制等(など)多岐にわたる。たとえば、車に安全基準を設けて事故が起きないような部品を付けさせることは、当然必要と考えがちだ。しかし、なぜ強制しなければならないのか、自分で安い粗悪な部品を選択しているのなら、それで良いのではないかと問われると、とたんにその当たり前が揺らいでくる。

 政府が高い安全基準を設ければ、製造コストが上がり、製品価格や料金にそれは跳ね返る。どこまで高い安全基準を設けるべきだろうか。このような問題はたとえば、自動運転車の安全基準を考える際に、正に直面する極めて現実的な課題だ。

 これらの問いに対して、著者は声高に自分の価値判断を示したりしないし、「正しい政策」が何かを訴えたりしない。この本で語られているのは、むしろ、道徳的価値判断がいかに人によって異なるかを理解する目の養い方である。

 また、多元的価値観を認めたとしても、政策の与える影響は多面的で、価値判断と政策や規制との関係も複雑だ。その複雑な関係をきちんと理解し、問題を解きほぐして考えることの重要性が示されている。大沢津、原田健二朗訳。

 ◇Jonathan Wolff=オックスフォード大ブラバトニック公共政策大学院教授。著書に『ノージック』など。

 勁草書房 3200円

読売新聞
2017年1月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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