『異端カタリ派の歴史』 ミシェル・ロクベール著

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異端カタリ派の歴史 十一世紀から十四世紀にいたる信仰、十字軍、審問

『異端カタリ派の歴史 十一世紀から十四世紀にいたる信仰、十字軍、審問』

著者
ミシェル・ロクベール [著]/武藤 剛史 [訳]
出版社
講談社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784062585026
発売日
2016/11/11
価格
3,348円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『異端カタリ派の歴史』 ミシェル・ロクベール著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

迫害された集団、真の姿

 皆さんは「異端」という言葉からどのようなイメージを連想されるだろうか。おそらく、おどろおどろしい類いではないか。しかし、東欧で興り、11世紀に西欧に伝播(でんぱ)したキリスト教の異端カタリ派は、聖職者自らが額に汗して働き、力を否定し純粋な神への愛を共有する原始キリスト教共同体のような良き人たちの集団だった。本書は同派の歴史に真正面から取り組んだ決定版である。

 同派はローマ教会から徹底して敵視された。それは二元論を信じていたからである。神は天、霊、魂を造ったが、地、肉体、物質は悪しき神が造った。彼らは「ヨハネによる福音書」を根拠に、肉体(物質世界)という悪しき牢獄(ろうごく)を脱して真の故郷である天に還(かえ)ることが人間の救いだと説いた。そして、12世紀の南仏(ラングドック)に、寛容なトゥールーズ伯レモン6世の黙認の下、シモーヌ・ヴェイユが「一種の奇跡」と呼んだ信仰共同体を成立させた。

 これに対し、ローマ教会は異端審問を制度化し、アルビジョワ十字軍を送って殲滅(せんめつ)(改宗か火刑)を図る。中世の封建秩序の保証人であったローマ教会には初めから平和解決を図る気持ちはなかった。こうして同派の歴史は酸鼻をきわめる迫害の300年史となったのである。

 本書は、二元論的異端の勃興、十字軍、異端審問の3部から成っている。教皇イノケンティウス3世は異端幇助(ほうじょ)者たち(南仏の地方領主)の財産を没収するというアメを十字軍に与えた。かくして、シモン・ド・モンフォールが大活躍する。しかし、南仏全体を接収するにはフランス王の出馬を仰ぐしかなかった。こうして異端撲滅とフランス王家による南仏併合が同時進行したのである。

 「正統」な歴史は常に勝者によって語られるが、そこで歪(ゆが)められた当時の人々の真の姿は異端の歴史を掘り下げることで見えてくる。本書を読んで同派を取り上げた佐藤賢一の『オクシタニア』を再読したくなった。武藤剛史訳。

 ◇Michel Roquebert=1928年、仏ボルドー生まれ。中世南仏の歴史と文化研究の専門家。

 講談社選書メチエ 3100円

読売新聞
2017年1月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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