『美と実在 日本的美意識の解明に向けて』 佐藤透著

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美と実在: 日本的美意識の解明に向けて

『美と実在: 日本的美意識の解明に向けて』

著者
佐藤透 [著]
出版社
ナカニシヤ出版
ISBN
9784779510786
発売日
2016/12/10
価格
2,484円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『美と実在 日本的美意識の解明に向けて』 佐藤透著

[レビュアー] 納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

 美しいものに出会うと心が動かされ、人生が豊かになる。自然風景であれ芸術作品であれ、私たちは美を体験して生きる。だが「美とは何か」と問うと、とても難解な哲学の問題になってしまう。本書はその問いに主に現象学の立場から接近し、丁寧な分析を加えていく。考察はさらに、日本の美意識に応用される。

 美の体験は現象学が「エポケー」と呼ぶ態度変更で成立し、本当のあり方、実在を示す。今日では多くの人が「美は主観的な感覚で、人それぞれで異なる」とか「社会や文化で相対的に決められている」と考えがちである。だが著者は、美の普遍的なあり方を「根源美」として捉え、そこで私たちが世界の真実の姿に出会うと論じる。

 後半は、私たちに馴染(なじ)み深いがやはり説明困難な「侘(わ)び、寂(さ)び、幽玄」の三つの日本的美意識が取り上げられ、前半で考察された普遍的な美の体験から分析される。そこでは昭和の美学者大西克禮(よしのり)らの議論が再検討され、哲学的美学の可能性が探られる。

 派手さはない議論に、哲学の言葉の静謐(せいひつ)さがそれ自体美しく感じられる。

 ナカニシヤ出版 2300円

読売新聞
2017年1月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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