<東北の本棚>原発事故不実を映す

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<東北の本棚>原発事故不実を映す

[レビュアー] 河北新報

 東日本大震災発生時はいわき市の自宅にいて、大揺れを体験した。続く福島第1原発事故。「これからどうなる?」。屋内退避の指示が出た。
 <ガラス戸をいち枚へだてたちまちに黄のクローカス界を異にす>。その時、庭に黄色に花が咲いていた。「花を見ていると、自分が日常生活から遠ざけられてしまう感覚になった」と言う。震災詠を中心に200首余を収録した。
 著者は1942年南相馬市生まれ。東北大で国文学を専攻、福島県内の高校で国語教師に。実母の介護を経験する中で「込み上げるものを表現したかった」のが歌を始めるきっかけだ。
 <震るなゐにざわめきやまぬ原子の炉明日を約さぬ夕つ陽を見る>。事故から10日後に千葉県野田市に住む妹宅に自主避難した。半月間滞在。ふるさとは<いやさかの弥生ただなかふくしまはフクシマといふ穢土となりけり>となる。
 しかし、<「放射能は正しく怖れよう」といふ 我ら歯ぎしりをして「正しく」>。素人が分かる話ではない。<放射能のことはもういい ふくしまに疲れてしまつたお母さんたち>
 「あれだけ恐ろしい思いをし、いまだに人々は苦しんでいる。原発はこの世にあってはならないもの」と言い、政府の原発再稼働の動きに疑問を呈する。
 青磁社075(705)2838=2700円。

河北新報
2017年1月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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