文庫で次々登場、ワイドスクリーン・バロックSF 『イシャーの武器店』ほか3作

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絢爛豪華な代表作が次々と新たな文庫化

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 SFには「ワイドスクリーン・バロック」と呼ばれる流派というかサブジャンルがある。銀河を股にかける壮大なスケール、めくるめくアイデアの奔流、絢爛豪華な物語性が特徴。ある意味、SFのひとつの理想形かもしれない。その代表作が、つい最近、新たな文庫版で相次いで登場した。

 A・E・ヴァン・ヴォークトイシャーの武器店』(1951年)は、20世紀アメリカのある街に、遥か未来の武器店が忽然と現れる場面で始まる。宇宙最高のエネルギー武器を売るというこの店は、7000年未来の武器製造ギルドに属し、女帝が統べる強大なイシャー帝国と対立。ギルドが帝国側の攻撃を受けたことで、遥かな過去へ一時的に飛ばされてきたのだった。

 そうとは知らず、取材のつもりで武器店に足を踏み入れた20世紀の新聞記者マカリスターは、莫大な時間エネルギーを体に蓄積し、まるでシーソーのように、過去と未来を行ったり来たりする羽目に……。

 著者は、映画「エイリアン」の元ネタとも言われる『宇宙船ビーグル号の冒険』で知られる作家。続編にあたる『武器製造業者』(原書刊行はこちらの方が4年早い)も同時に新装版が出たので、一緒にぜひ。

 ハヤカワ文庫から出た『破壊された男』(53年)は、『虎よ、虎よ!』で有名なアルフレッド・ベスターの長編デビュー作にして、第1回ヒューゴー賞受賞作。65年にハヤカワ・SF・シリーズから出た親本は、日本を代表するSF翻訳家・伊藤典夫が弱冠22歳で上梓した初の単独訳書。しかし、同じ月に創元推理文庫から『分解された男』のタイトルで沼沢洽治訳が出たため、文庫化されないまま埋もれていた。今回、その幻の名訳が、半世紀ぶりに復活した。

 時は2301年。人類は太陽系全体にあまねく広がり、エスパー・ギルドによる支配が確立。犯罪が成り立たない社会が到来した。心理捜査局の設立以後、過去70年、計画殺人の発生はゼロ。だが、モナーク産業社長のベン・ライクは、ライバル企業の社長を殺害するため、エスパーの買収工作に乗り出した……。

新潮社 週刊新潮
2017年1月26日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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