正しくあることより大切なこと『ただしくないひと、桜井さん』滝田愛美

レビュー

5
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ただしくないひと、桜井さん

『ただしくないひと、桜井さん』

著者
滝田 愛美 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103505716
発売日
2016/12/22
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

正しくあることより大切なこと『ただしくないひと、桜井さん』滝田愛美

[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)

『ただしくないひと、桜井さん』は、二〇一四年に、「女による女のためのR―18文学賞読者賞」を受賞した作品を軸に書かれている。NPOが運営する子どもの居場所を提供するボランティア“ぽかぽかハウス”につながる人々が、順々に語り手を務める連作短編集だ。誰でも「自分の善良さ」にある程度の自信がなければ生きていけないが、正義のナタを振り下ろすことにためらいがない人だらけの世の中は怖ろしい。

 その点、本書に出てくる登場人物はおおむね正反対。悪事を働いているわけでもないのに、自分の正しさになどあまり胸を張れないと、うつむいて生きているような人たちばかりだ。

 表題にも名前が使われている〈桜井さん〉は、塾講師の傍ら、毎週金曜に学校の退けた子どもたちの面倒を見るこのボランティアに参加している。子どもたちからはのんきな兄貴分のように見られている彼だが、生い立ちゆえに、若くして人生をかなりナナメから見ている。ぽかぽかハウスにやってくる中学生の横田太郎と星野柚希の家庭はそれぞれに問題を抱えているが、当人たちは自分の境遇や、やむにやまれぬ感情の暴走を、それなりに受け入れているように見える。そんな矢先、どうにか体裁を繕っている日常を木っ端みじんにする出来事が……。

 実際にこんな事件が明るみに出れば、社会生活は自分の正しさを疑わない人たちからボコボコにされるだろうが、本書では一話めの短編のタイトル「正義のみかた」が全編を貫く暗喩になっている。語り手たちはみな、後ろめたさを抱えつつ、インモラルな愛や欲望から逃れられない。だが、各人のやむにやまれぬ理由が見えてくるにつれ、正義はいつも見方次第なのだと思えてくる。ときに道を踏み外す人たちをも包む、優しい物語だ。

光文社 小説宝石
2017年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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