明文堂書店石川松任店「青春の負の一面が触れて欲しくない部分を撫でる」【書店員レビュー】

レビュー

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沈黙の教室

『沈黙の教室』

著者
折原, 一, 1951-
出版社
早川書房
ISBN
9784150305796
価格
968円(税込)

書籍情報:openBD

明文堂書店石川松任店「青春の負の一面が触れて欲しくない部分を撫でる」【書店員レビュー】

[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)

物語の前半では『青葉ヶ丘中学校3年A組。同窓会における殺人計画』と記された手帳を頼りに自分の正体を探る記憶喪失の《彼》と恐怖新聞による粛清が横行する3年A組の担任となった《私》の二つのパートが交互に綴られていく。そして《私》のパートで不気味に挿入される恐怖新聞が作中に充満する不安や恐怖を強めていく。
敵意と憎悪に満ちた学校生活の様子が灰色の青春時代を過ごした私の触れて欲しくない部分を撫でる。私だけでなく、学校生活を経験したことがある者のほとんどは、あの小さな社会が持つ独特な雰囲気を多かれ少なかれ知っているだろう。思い出したくない過去を持たない人間のほうが珍しいはずだ。そんな青春の負の一面を類稀な技巧によって一級品のホラーミステリに昇華させたのが本書である。時間の経過を免罪符にするという罪に対する強い戒めが感じられる一冊だ。
成長した生徒たちの一部が見せる振る舞いは不快でさえある。しかし彼らとは違う、と本当に言い切れるだろうか……、と思わず自問してしまった。
そして読後、私の頭に浮かんだのは《人を呪わば穴二つ》という言葉だった。過去に行われた行為はもちろんだが、現在で行われる(あるいは行われようとした)復讐も決して《良い》ものとしては書かれない。先の読めない恐怖が続く展開に精神が疲弊している読者にそのメッセージは、より強く響く。読み継がれて欲しい傑作である。

トーハン e-hon
2016年12月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

トーハン

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