黒川博行×佐々木蔵之介 関西弁で語り合うスペシャル対談!――『破門』映画化、シリーズ続編『喧嘩(すてごろ)』刊行記念

対談・鼎談

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喧嘩(すてごろ)

『喧嘩(すてごろ)』

著者
黒川, 博行, 1949-
出版社
KADOKAWA
ISBN
9784041046210
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

破門

『破門』

著者
黒川, 博行, 1949-
出版社
KADOKAWA
ISBN
9784041041178
価格
1,012円(税込)

書籍情報:openBD

〈刊行記念対談〉黒川博行『喧嘩(すてごろ)』×佐々木蔵之介

大阪一の“イケイケ”ヤクザ・桑原と、彼を“疫病神”と忌み嫌うカタギの二宮。二人が主人公の〈疫病神シリーズ〉五作目にして直木賞受賞作『破門』が映画化。来年一月の公開に先立ち、シリーズ最新作『喧嘩』が十二月九日に刊行される。シリーズの生みの親である黒川博行と映画で桑原を演じた佐々木蔵之介が、ネイティブの関西弁で語りあうスペシャル対談!

「桑原」はかけがえのない役

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──映画『破門 ふたりのヤクビョーガミ』は、いかがでしたか?

黒川 面白かったですよ。基本的にね、文章と映像はぜんぜん別物なんですよ。せやから、僕は原作をどのように変えてもらってもけっこうやと思ってる。極端に言うたら、二宮と桑原のどちらかが女でもかまわないですよ。でも、この映画に関しては、わりに原作に忠実でしたね。あれだけの長い原作を二時間の尺に入れようと思ったら当然、削るべきところがたくさんあるんですけど、ストーリーの流れがぜんぜん切れないんですね。脚本がうまいことできてたんでしょう。それに監督の演出が優れているなと思いましたね。映画として華があります。佐々木さんの演技も当然お上手で、しかもところどころ狂気が出てくる。

佐々木 ありがとうございます。この役をいただいたときは本当に嬉しかったんです。関西弁をしゃべらせていただいて、しかもヤクザで、という役はそうそう巡ってくるものではないので、かけがえのない役だと思ってやりました。いま「狂気」とおっしゃっていただきましたけど、どこまでやればいいのか手探りでした。映画プロデューサーの愛人のマンションで、敵対するヤクザと乱闘になるシーンがありますよね。机投げて、金的蹴り上げて、菜箸でほっぺた突き刺す。あれが初日だったんですよ。

黒川 あれが撮影初日ですか?

佐々木 そうなんです。いきなりアレでしたから、どこまでやったらええかわからない。けど、ここ一番のところやから、と思って無我夢中でやりました。ハードなところから始まって、手探りのまま、針を振り切った状態から入ったのがよかったのかもしれないですけどね。

黒川 おもろいですねえ(笑)。

佐々木 僕にとって黒川さんの小説は、声に出して読む小説なんですよ。役者にとってあの台詞は珠玉なんです。とくに僕のように関西弁をしゃべる人間にとっては。刺すか刺されるか、殺るか殺られるかみたいなときでも、ユーモアが滲み出る。関西弁の色気ってすごいなとあらためて思いました。台本は二時間分ですけど、もっとしゃべっていたかった。「台本にはないけど原作のあの台詞をしゃべりたい。なんとか入れられんか」とずっと考えてましたね。

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黒川 書いてるとき、僕もものすごく声を出してるんですよ。一生懸命、パソコンに向かって台詞を読み上げてます。嫁はんが「また声出しよる」って言うけどね(笑)。台詞の言い回し一つでも、キャラクターの年齢、住んでいる場所が出る。最近のヤクザは、こんな柄の悪いアホみたいなこと言わんやろとか。何遍も何遍も、読み上げては書き直します。でもそのうちの五分の一くらいしか文章になってません。僕の小説って台詞で転がす小説ですから、そこが腐ってしまったらダメなんです。そうやって苦労して書いた台詞を映像で俳優がしゃべってくれる。そりゃ、楽しいですよ。
佐々木さんの桑原は上品でしたね。勘違いしてる人が多いんですけど、原作でも桑原ってわりと上品なんですよ。決して本物の大阪ヤクザみたいに柄が悪くはないんです。ケンカのときには乱暴な言葉を使っていても、基本的には品がいい。佐々木さんの桑原も、上品でときどき狂気が出てくる。「たいしたもんやな、これが役者やな」と思いました。

佐々木 桑原はヤクザですから、トコトン悪い。でも、なんでしょうね、一方で、ケンカが強くて金勘定ができて、ユーモアがある──最高じゃないですか。男が惚れる男ですよね。そりゃ、近くにいたら嫌ですけどね(笑)。

黒川 佐々木さんの桑原はおしゃれでしたね。それも原作通りです。

佐々木 監督もそのへんにはすごくこだわりがあって、衣装に関しても、大阪のテイストも入れつつイタリアン・マフィアも入れたいし、と。

──撮影をされていて、桑原がつかめた、と手応えを感じた場面はありましたか。

佐々木 いやいや。手応えなんてものはどの作品でも感じることはないですね。いままで映像やってきて。

黒川 それは小説も一緒ですね。書き終わって、読者に読んでもらうまでは手応えなんてわからん。

佐々木 これでできたなんて思ったら次の作品はできないですね。足りない、できないと思うから、また次をやりたいと思う。僕はまだ桑原できてないので、またやりたいですね。本当に(笑)。

原作もドライ。映画もドライ

──一方、横山裕さん演じる二宮はカタギで、桑原を「疫病神」と言いながら、関わってしまう。二人の関係はどうでしょうか。

佐々木 最初に横山君と僕とで、台本の読み合わせをしたんですが、監督が「間が良すぎる」と言うんですよね。

黒川 ああ。原作では二人は決して好き合ってる仲とちゃうからな。掛け合いがテンポ良すぎたら困る。

佐々木 そうなんですよね。二人は経済的なことだけでつながっていて、決してコンビじゃない。お互いに心のなかではずっと「蹴ったろか」と思ってる。監督から「映画のなかで、一瞬コンビかなと思われるようなシーンがあっても、最後は嫌い合う感じにしたい。あんまり間がよく、テンポがいいと笑うてまうからアカン」と言われて、そりゃそうや、と。ちょっとニヤッとするくらいの間でいこうか、と。監督はそのへんをすごく考えていらっしゃいましたね。黒川さんの原作が、リアリティを持たせたうえでエンターテインメントに昇華されているからこそ、僕たちの映画もリアリティをきっちりしなきゃいけないと、スタッフもキャストも思っていました。もちろんお客さんには笑ってほしいんです。でも、それは笑かすんじゃなくて、結果として笑ってしまうようにと。

黒川 乾いた映画ですよ。小林(聖太郎)監督は自分でも言うてたけど、ウェットなところ、情がどうのこうのっていうのが好きじゃない人だから。俺もすごく嫌いです。原作もドライ。映画もドライ。そういう意味で、ちょっと変わった任侠映画ですね。

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佐々木 義理人情でもないし。かといってポップなわけでもないですし。

黒川 ドキュメンタリー・タッチと言われてましたけど、『仁義なき戦い』なんて、実はすごくウェットな映画ですよ。乾いているほうがいいと思いますね。乾いているから、若い人が見ても楽しめると思う。

佐々木 関ジャニ∞のファンがどう見てくれるのか。とっかかりさえあれば、たぶん楽しんでくれると思うんですよ。

黒川 しかも北川景子みたいな主演級の女優が脇でさらっと出てるでしょう。贅沢な配役ですよ。

佐々木 実は台本を読んだときから二宮が羨ましいなあって思ってたんです。何がかっていうと、二宮は、(いとこ役の)北川景子ちゃんとしゃべったり、(母親役の)キムラ緑子さんと食卓で向かい合ったり、あったかい、やわらかい関係があるじゃないですか。僕は(ヤクザ役の)宇崎竜童さんや木下ほうかさんとかと、ずーっと駆け引きしなあかん。いつもピリピリして。たまにフグ食べたりするシーンがあるくらいですよ。その代わりといってはなんですけど、すごい現場でしたね。國村隼さんもそうやけど、熱量のある人ばっかりだったから。橋爪功さんは嬉々として演じてらっしゃいましたし。

黒川 あの話、裏の主役は映画プロデューサーの小清水(橋爪功)やからね。役者としていちばんやりたいのはたぶん小清水の役でしょう。

佐々木 同感です。ウソしか言わん奴ですからね、小清水は。

黒川 橋爪さんは上手いですなあ。

佐々木 大好きな俳優です。

黒川 芸達者な人が多い映画ですよ。役者に対して失礼な言い方かもしれないけど。それに関西弁にも感心しましたね。どんな映画でも、たいていは一人か二人怪しい人がいるもんです。でも、今回は完璧。監督が関西弁をうまく使う人ですから。

物語が勝手に転がっていく

──『破門』の次の作品にあたるのが、最新刊の『喧嘩』です。破門された桑原がどうなるか? 気になるところです。

佐々木 新幹線のなかで読ませていただきました、声出して(笑)。桑原が二宮の顧問を名乗ったり、ビジネスパートナーだと言ったり、そのたびに違うのが面白かったですね。それにこれからの議員の利権は土建じゃなくて福祉だというのもなるほどと思いました。入所希望者とその家族の票が取れるし、国からは福祉予算が入る。

黒川 何かネタがないかと思っただけですよ。難しいことは一切考えません。基本はキャラクター。キャラクターができていればなんでも書けますよ。だからシリーズものは比較的ラクなんです。シリーズじゃない場合でも、冒頭から五分の一くらいでキャラクターがはっきりしてきますね。そうすればあとは勝手に転がっていく。作家は最初に結末までストーリーを考えてると思われがちですけど、長篇の場合、そんなことないですよ。

佐々木 本当ですか?

黒川 連載って一年以上ですよ。それだけ連載していたら、途中で考えが変わりますやん。たとえば、主人公がこんな危地に陥ったら面白いなと思って、そうするんですけど、殺すわけにはいかないから助けなあかん。そこでものすごく考えるんですよ。その連続ですね。単行本にするとき直すこともありますけど。『喧嘩』は連載分に五十枚くらい足しました。でも、ほとんど直さないこともありますよ。

佐々木 まさに物語を転がしていってるんですね。あとで直したり、そのままのときもあるとおっしゃっていましたが、僕らも、やり直したいと思うことはあるんです。

黒川 あるでしょうね。

佐々木 あるんですけど、でも、そのときの熱量でできあがったものを超えられるかどうかはわからないんですよ。日を改めてやったらもっといいものができるのかって言ったらわからない。舞台は一発勝負だってよく言いますけど、僕はむしろ映像のほうが一発勝負だと思っているんです。舞台は東京で一カ月、地方で一カ月くらいやるのが普通ですから、何回でもやり直すことができますけど、映像の場合は一回OKが出てしまえば、それで決まりですから。

黒川 映画にはたくさんの人が関わって、お金もかかってる。せっかく面白い映画になったから、この映画が当たって、次の『喧嘩』も蔵之介さんの主演で映画になるといいですね。

佐々木 そうなってほしいですね、本当に。まだしゃべり足りないですから(笑)。

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)
1949年愛媛県生まれ。86年『キャッツアイころがった』でサントリーミステリー大賞を受賞。2014年『破門』で直木賞を受賞。主な著書に『疫病神』『国境』、16年夏に映画公開された『後妻業』などがある。

佐々木蔵之介(ささき・くらのすけ)
1968年京都府生まれ。劇団「惑星ピスタチオ」で看板俳優として活躍。その後、テレビ、映画、舞台と幅広く活動。主な映画出演作品に『間宮兄弟』『超高速!参勤交代』『夫婦フーフー日記』『残穢 ー住んではいけない部屋ー』ほか。

取材・文=タカザワケンジ  撮影=ホンゴユウジ  佐々木氏スタイリング=勝見宜人(Koa Hole inc.)

KADOKAWA 本の旅人
2016年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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