《堅気》になった極道が、利権漁りのクズどもに挑む痛快クライムノベル!

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喧嘩

『喧嘩』

著者
黒川 博行 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041046210
発売日
2016/12/09
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

《堅気》になった極道が、利権漁りのクズどもに挑む痛快クライムノベル!

[レビュアー] 西上心太(文芸評論家)

 人間ひとたび肩書きがはずれると、それ以前との扱いの差に愕然となって、ハラホロヒレハレ~となる人が多い。人はあなたの肩書きに頭を下げていたのだ、ということがわかっていないと、こうなりがちである。逆に言えば肩書きがはずれた時にこそ、その人の真価が問われるのではないか。

 それは公務員やサラリーマンだけでなくヤクザも同じこと。ヤクザにとって後ろ盾となる《代紋》がなくなることは、死命を制されたに等しいはずだからだ。

 ところがここに「いまどき極道のメリットがどこにあるんじゃ。わしは要らん。代紋なんぞ、犬の首輪の飾りにしかならんわい」と、うそぶく男がいる。桑原保彦である。

 本書は建設コンサルタント二宮啓之とイケイケヤクザ桑原保彦がコンビを組んだおなじみの《疫病神》シリーズ第六弾だ。前作のタイトル『破門』からもわかるように、桑原は神戸川坂会系二蝶会の若頭補佐だったが、本家筋の組と揉めたことが原因で破門されてしまっている。これにより組という後ろ盾がなくなること以外にも、さまざまな弊害が生じてくる。本書でも桑原はある暴力団員を病院送りにするのだが、組織に属していれば数十万円の見舞金で手打ちに持ち込めた流れが、《堅気》にやられたとなったためその相場が一挙に何倍にも跳ね上がることになってしまったのだ。このようにいくら代紋は犬の首輪の飾りだと強がっても、《破門》された事実は桑原に大きくのしかかってきている。だがこの桑原という男、ただ者でないことはファンの皆さまはご存じだろう。最大のピンチをどう切り抜けていくのか、それが本書の一番の読みどころである。

 暴排条例の施行によって、二宮の稼業は長期低落傾向にある。そんな状況であっても暢気に構える二宮だったが、しばらくぶりに顔を合わせた同級生の長原という男から持ちかけられた仕事が常とは違うといっても、それを蹴るほどの余裕は持っていなかった。

 長原は大阪選出の与党国会議員西山の私設秘書なのだが、西山の地元事務所に火炎瓶が投げ込まれた事件があったという。大阪府議会議員の補欠選挙をめぐり、票のとりまとめを頼んだ麒林会という暴力団との間に起きた金銭トラブルが原因らしかった。長原は二宮がこれまでの《サバキ》で培った人脈を利用して、麒林会と話をつけてくれというのだ。ところが麒林会の背後には神戸川坂会直系の鳴友会が控えていた。鳴友会と事を構えるのを恐れ、二宮の口利きに頷く者はいなかった。背に腹は代えられない二宮にとって、残された道はただ一つ……。こうしてまたもや二宮は《堅気》の桑原とコンビを組むことに。

 思わず吹き出してしまう二人の会話の箇所に付箋をつけたら、本書は付箋だらけになってしまうだろう。だが軽妙な会話がまぶされているとはいえ、二人がやっているのは反社会的行為である。脅迫、暴行、傷害、拉致……。実行者は桑原であるが、二宮だってほとんど共犯者である。それなのに本書がこれまで以上に痛快なのは、ヤクザ以上に悪辣な政治家およびその秘書たちが相手だからだろう。選挙民の買収という不正選挙によって当選し、議員になれば裏口入学斡旋をはじめ、立場を利用してさまざまな利権を漁ろうとする。その手足となるのが私設秘書だ。秘書たちは私腹を肥やしつつ上納金を納め、議員は秘書たちの行動を見て見ぬ振りをする。二宮はそんな浅ましく、先生と呼ばれて床の間にふんぞり返る《政治屋》たちを「ヤクザよりまだ質がわるい」と切り捨てる。

 そんな海千山千のクズどもに〝極道は暴力を振るうからこそ極道である〟という揺るがぬ信念を抱く桑原が挑むのである。議員歳費や政治活動費を掠めとり「クズのくせに税金を納めている市民を下に見」る輩に鉄槌を下し──ついでに大きなシノギを成し遂げる桑原の姿は痛快そのもの。次作では新たな展開が望めそうでもあり、ますます目の離せないシリーズとなった。

KADOKAWA 本の旅人
2016年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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