『介入のとき 上・下』 コフィ・アナン、ネイダー・ムザヴィザドゥ著

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介入のとき コフィ・アナン回顧録 上

『介入のとき コフィ・アナン回顧録 上』

出版社
岩波書店
ISBN
9784000611619
発売日
2016/11/25
価格
2,916円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

介入のとき コフィ・アナン回顧録 下

『介入のとき コフィ・アナン回顧録 下』

出版社
岩波書店
ISBN
9784000611626
発売日
2016/11/25
価格
2,916円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『介入のとき 上・下』 コフィ・アナン、ネイダー・ムザヴィザドゥ著

[レビュアー] 三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)

困難な時代に立ち会う

 元国連事務総長のコフィ・アナンは、地球連邦の議長職があったとしたら一番ふさわしい外見の持ち主だ。英国支配下だったガーナ出身の黒人で、父親は州の名士だった。本書で語られるのは在任期間の重要な出来事ばかりだが、随所で覗(のぞ)かせる彼の強い意志を象徴しているのが、次のエピソードだ。彼は父親の反対を押し切り、ガーナで働かずにWHO(世界保健機関)に入った。なぜ父親のような地域の大物ではなく、グローバルなエリート官僚であろうとしたのか。その意志の裏には、人種差別、途上国差別に対する彼の抜き去りがたい不信感があった。

 彼の任期の10年は、国際政治の転換期だった。前任のブトロス=ガリは「平和への課題」を発表して国連主導の紛争介入に道筋をつけたが、その目標の高さゆえに失敗する。アナンは、コソボ介入を後押しし、イラク戦争に反対し、困難な介入の時代をすべて見てきた。

 アナンはまるでどこの国にも所属していないような人だった。洗練された佇(たたず)まいで、抑制的にふるまい、スウェーデン出身の背の高い夫人、ナーネを随伴するアナン。彼の存在を、私は必要以上に懐疑的に見ていたかもしれない。

 本書は、パウエル米国務長官(当時)が、イラク戦争が正しかったことを証明するための大量破壊兵器製造ラボが見つかった、と弾んだ声音でアナンに話すところから始まる。歴史は残酷だ。パウエルはイラク戦争に反対だったにもかかわらず、国連の場では開戦の決断を支持しなければならなかった。しかも現在の我々は、ラボが見つかったというその情報も正しくなかったことを知っている。イラクには大量破壊兵器などなかったのだから。

 アナンがこの本で伝えようとしたことは、紛争を収めることがいかに困難か、ということだ。戦争で紛争を収められる、先進国が主導して問題を永遠に解決できる、という甘い期待が、いかに空(むな)しいものだったのかを。白戸純訳。

 ◇Kofi Annan=1938年生まれ。97年~2006年に国連事務総長。01年、国連とともにノーベル平和賞受賞。

 岩波書店 各2700円

読売新聞
2017年1月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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