『ぼくのミステリ・クロニクル』 戸川安宣著

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ぼくのミステリ・クロニクル

『ぼくのミステリ・クロニクル』

著者
戸川安宣 [著]/空犬太郎 [編]
出版社
国書刊行会
ISBN
9784336058966
発売日
2016/11/17
価格
2,916円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ぼくのミステリ・クロニクル』 戸川安宣著

[レビュアー] 土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

名伯楽の読む編む売る

 著者は、東京創元社の編集長、編集部長、社長、会長、特別顧問、相談役を務めた。東京創元社といえばまずは創元推理文庫をはじめとした翻訳ミステリや、あるいは一九八〇年代末からの新本格派など日本作家発掘まで、とにかくミステリ好きには避けて通れぬ出版社である。いやいやそれどころか、マニアにとっては「魂の故郷」である。一九七〇年に入社以来、その東京創元社を支えて共に歩んだ「ミステリを愛しミステリに愛された稀代(きだい)の名伯楽」(帯より)である著者の回想が本書だ。

 同じ時代を読者として過ごした私には、とにかく楽しい本である。ああ、あれもこれも読んだ、そうかこの本も戸川さんが編んだのか、あの本には作者には翻訳者にはこんなエピソードがあったのかと、読み進めながらあれやこれやと本棚からお久しぶりの本たちを引っ張りだしたりもして、ちょっとした時間旅行を楽しませてもらった。〈シャーロック・ホームズのライヴァルたち〉シリーズに〈日本探偵小説全集〉に〈探偵小説大全集〉と、いやはや、ミステリ読者としての私の血肉骨格のかなりを著者の編んだ本たちが作ってくれたのだなあと、あらためて感心させられた。

 本書は「読む」と「編む」と「売る」の三章からなるが、著者がミステリ専門書店の経営に関わった「売る」章もまた、仙台の零細出版社のオヤジたる私には考えさせられるところ大だった。「読む」も「編む」も大事だが、その本を読者に届け手渡す「売る」行為の難しさは昨今の出版不況とやらをめぐる議論をながめていてもわかるとはいえ、さて、それでは著者が編んだ本たちの頁(ページ)を繰ったかつての私がドキドキワクワクときめいたあの感覚を、次の世代の読者にどうやって繋(つな)ぐのか。宿題をもらった。

 その意も込めて、根っからのミステリ好きだけでなく「これからミステリを読んでみようかな」と、そんな読者にも手に取っていただきたい一冊である。空犬太郎編。

 ◇とがわ・やすのぶ=1947年生まれ。2004年、本格ミステリ大賞特別賞。著書に『少年探偵団読本』(共著)。

 国書刊行会 2700円

読売新聞
2017年1月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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