『幻の料亭・日本橋「百川ももかわ」』 小泉武夫著

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幻の料亭・日本橋「百川」

『幻の料亭・日本橋「百川」』

著者
小泉 武夫 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784104548057
発売日
2016/10/21
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『幻の料亭・日本橋「百川ももかわ」』 小泉武夫著

[レビュアー] 清水克行(日本史学者・明治大教授)

 落語「百川」は、料亭の奉公人と客との聞き間違いから起こる滑稽噺(ばなし)だが、もともと江戸に実在した一流料亭「百川」の宣伝のために作られたネタだったらしい。スポンサータイアップの元祖というべきだろうか。刺身の薄造りを氷塊に載せて出す「百川造り」も、何を隠そう、この店で創案された盛り付け法である。

 料亭「百川」は、大田南畝(なんぽ)や山東京伝など、当代の文人墨客が集まるサロンでもあった。著者は、その「百川」にまつわる史話を、お得意の食文化のウンチクを交えながら楽しく紹介してくれる。

 とくに印象深いのは、本書で紹介される料理の数々。味噌(みそ)蔵に3年間吊(つ)るした昆布をさらに3年間味噌漬けにした、琥珀(こはく)色の「乾板(かしいた)の味噌漬け」。焙烙(ほうろく)の底に塩と松葉を敷き、松茸(まつたけ)を蒸し焼きにする「百川焙烙蒸し」。精進節(しょうじんぶし)(豆腐の鰹(かつお)節)で出汁(だし)をとった特製煎り酒で食べる鱸(すずき)の刺身。

 嗚呼(ああ)…。もはや今となっては再現不可能な贅(ぜい)を極めた献立に、読んでいるだけでヨダレが止まらなくなる。落語「始末の極意」の旦那なら、本書をおかずに、きっと白飯3杯はイケるはず。

 新潮社 1300円

読売新聞
2017年1月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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